川端秀子

川端秀子（かわばた ひでこ）は、1907年（明治40年）2月8日に生まれ、2002年（平成14年）9月7日に没した作家・川端康成の妻です。旧姓は松林、戸籍名はヒテ。青森県三戸郡八戸町（現在の八戸市）で生まれ、青森県立八戸高等女学校（現在の八戸東高等学校）を卒業しました。

彼女の人生は、1925年（大正14年）に川端康成と出会ったことから大きく動き出します。二人は1931年（昭和6年）12月2日に入籍し、夫婦としての生活を始めました。夫である康成の文学活動を陰で支えながら、自身もまた、時代を象徴する存在として注目を集めました。

康成の没後、約10年を経た1983年（昭和58年）には、回想録『川端康成とともに』を出版しました。この著書は、夫である康成との生活や、彼の文学に対する姿勢、人となりを秀子の視点から描いた貴重な記録です。彼女の言葉を通して、康成の人間味あふれる一面や、文学への情熱が伝わってきます。

川端秀子は、大正末期から昭和初期にかけて、馬込文士村で生活していました。当時、この場所は多くの文学者や芸術家が集まる場所で、自由で奔放な文化が花開いていました。ダンス、麻雀、断髪、離婚などが流行し、新しい価値観が模索された時代でした。

その中で、秀子は断髪したモダンガールとして、時代の先端を行く女性の一人としてその名を刻みました。JR大森駅西口にある天祖神社の石垣には、「馬込文士村の住人」のレリーフが飾られており、そこには夫・康成の肖像と共に、断髪したモダンガール姿の秀子の姿も刻まれています。このレリーフは、当時の文士村における秀子の存在感を示す象徴とも言えるでしょう。

川端秀子の著作としては、回想録『川端康成とともに』の他に、「続・川端康成の思い出」や「出会い」などが知られています。また、雑誌『文學時代』や『週刊新潮』、『現代』などにも寄稿しており、夫である康成との生活や、自身の思いを綴っています。特に『週刊新潮』に掲載された「特別手記 插話『わが夫・川端康成』」や、『現代』に掲載された「独占 川端秀子未亡人が沈黙を破った五時間」は、彼女の内面や、夫への思いを深く知る上で重要な資料となっています。

彼女の著作や寄稿は、川端康成の文学を理解する上で、欠かすことのできない重要な視点を提供しています。また、当時の文化や風俗を知る上でも貴重な資料となっています。彼女の回想録やインタビューを通して、文学者たちの生きた姿や、時代背景、そして彼女自身の人生観が浮かび上がります。川端秀子は、文学者たちの妻としてだけでなく、時代を生き抜いた一人の女性としても、その名を記憶されるべき存在でしょう。

彼女は、2002年（平成14年）9月7日に死去し、近親者のみで葬儀・告別式が執り行われました。彼女の生涯は、激動の時代を生き、文学を愛し、そして夫を深く愛した女性の物語として、今後も語り継がれることでしょう。

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