川越大火

川越大火

川越大火（かわごえたいか）は、1893年（明治26年）3月17日の夜、埼玉県入間郡川越町（現在の川越市）で発生した、町域の広範囲に及ぶ大規模な火災です。

火災の発生と延焼

火の手が上がったのは同日午後8時15分頃、旧川越城下の養寿院門前にあった紺屋職人の作業場からでした。原因は、十分に消火されていない業務用の灰の不始末とされています。

火災報知の半鐘が鳴り響くと、町の消防22組が消火活動にあたりましたが、鎮火は翌18日午前8時でした。当時の川越は、数日続く乾燥と北からの強い風、そして消火用水となる井戸水が尽きたことが重なり、炎は猛烈な勢いで拡大。土蔵の間を縫うように燃え広がり、南町、本町など合計17町にまで延焼しました。

被害の規模

この大火により、当時の川越町の面積の約3分の1にあたる、実に1,302棟もの建物が焼失しました。特に、本町、南町、多賀町、上松江町、連雀町といった中心部は全焼となりました。

町のシンボルであった「時の鐘」をはじめ、第八十五国立銀行、川越電信局、蓮馨寺など3つの寺院も失われました。近隣の小仙波村や喜多町にも類焼しましたが、被害は限定的でした。商業都市として栄えていましたが、火の回りが速く、多くの商人が全財産を失いました。

幸い死傷者はなく、罹災者1,014人は町内11ヵ所の救助所に避難しました。

復興と蔵造りの街並み

鎮火後、埼玉県や川越町は迅速に復旧を開始。県知事や県職員、地元商人らが義援金や物資を寄せ、川越に縁の深い渋沢栄一らも支援しました。官民一体の復興支援が行われました。

復興の過程で注目されたのは、類焼を免れた建物のほとんどが蔵造りであったことです。高コストながらも火災に強い蔵造りの優秀性が再認識され、町の中心部を蔵造りで再建することが決まりました。

東京から職人を招いて進められた再建により、大火後わずか数年で200棟を超える蔵造りの建物が建てられました。これこそが、現在の川越を象徴する「蔵造りの街並み」の基礎です。川越の蔵造りは、地下室や塀に赤レンガを用い、外壁に黒漆喰を多用するのが特色で、独特の景観を生み出しています。

歴史的な意義

川越は歴史的に火災に見舞われることがありましたが、この1893年の大火は、その後の川越の発展に特に大きな影響を与えました。近代において、戦災や関東大震災といった大きな災害を免れた川越にとって、この大火は最も広範囲な被害をもたらした出来事でした。

同時に、この火災は蔵造りの耐火性を実証し、復興の中心に蔵造りが据えられる契機となりました。現在の「蔵造りの街並み」は、この大火からの復興で生まれたものです。この経験は、その後の消防・防災体制強化にもつながりました。

川越大火は、川越にとって大きな試練であると同時に、そこから学び、独自の魅力ある街並みを創造する出発点となった、記憶すべき歴史的な出来事です。

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