川野京輔

川野 京輔（かわの きょうすけ）

日本の多才な著述家であり作詞家。1931年8月29日、広島県に生まれる。本名は上野 友夫（うえの ともお）。作詞活動においては杉野 まもる（すぎの まもる）の筆名を用いた。文学の世界では、日本推理作家協会の名誉会員に名を連ねている。

作家としての黎明期と放送人としてのキャリア

中央大学法学部で法律を学んだ川野氏は、在学中の1953年頃から、性風俗誌や探偵小説誌に短編の投稿を始めます。同年暮れには、『別冊宝石』誌が募集した懸賞企画「宝石新人二十五人集」に、本名の上野友夫名義で応募した短編「復讐」が入選し、作家としての確かな第一歩を踏み出しました。その後も創作活動を続け、1955年には「消えた街」で第9回宝石賞の佳作に選ばれるなど、その才能を開花させていきます。

一方で、1954年にはNHKに入局し、放送界の道も歩み始めます。NHK広島中央放送局やNHK松江放送局の放送部での勤務を経て、1960年からは東京の芸能局ラジオ文芸部に配属されます。ここではラジオドラマの演出などを担当し、放送の現場で長年にわたり番組制作に携わりました。1991年にNHKを定年退職するまで、作家活動と並行して放送人としてのキャリアも築き上げました。

多様な分野での執筆活動

NHK退職後も、フリーランスの脚本家・演出家として活躍し、特にNHKラジオ第一放送で長寿番組となったラジオドラマ「日曜名作座」などを手掛けました。川野氏の特筆すべき点は、その執筆分野の広さです。初期の探偵小説から始まり、推理小説、歴史小説、評論、ノンフィクション、エッセイに至るまで、非常に多岐にわたるジャンルで著作を発表しています。

代表的な著作には、初期の怪奇・探偵小説集である『妖美館の招待状』、『消えた町』や、歴史上の人物や事件に焦点を当てた『原田甲斐 - 伊達騒動を推理する』、『天下御免の男 平賀源内』などがあります。また、現代社会の不安に迫る評論『現代の不安 - 人間蒸発』や、自らの放送経験を基にした『推理SFドラマの六〇年』のようなノンフィクション、さらにはオーディオに関する入門書なども執筆しており、その関心と知識の幅広さがうかがえます。近年では、論創社から探偵小説選集も刊行されています。

映画と音楽への貢献

川野氏は文学作品だけでなく、映画の世界にも貢献しています。特に1960年代には、日活で制作された複数の映画で原作を担当しました。『サラリーマン物語 新入社員第一課』、『アカシアの雨がやむとき』、『機動捜査班 静かなる暴力』など、その原作作品は多岐にわたり、映像作品の創作にも関わりました。

また、杉野まもる名義での作詞家としての活動も特筆されます。著名な歌手に数多くの楽曲を提供しており、その作品は歌謡曲、映画・ドラマのテーマ曲、アニメソング、子供向け楽曲など、幅広いジャンルに及びます。西田佐知子の「さいはての慕情」、石原裕次郎の「逃亡列車のテーマ」「番外野郎」、小林旭の「花と怒涛」、倍賞千恵子の「小さな二人の幸せを」など、今も語り継がれる多くの楽曲の作詞を手掛け、日本の音楽シーンにも大きな足跡を残しました。

作家、放送人、映画原作、作詞家と、いくつもの顔を持つ川野京輔氏は、その多角的な才能を通じて、昭和から平成にかけての日本の文学、放送、そして音楽文化の発展に寄与した、非常にユニークな存在と言えるでしょう。

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