巡察使 (古代日本)

巡察使について

日本の律令制における巡察使（じゅんさつし）は、地方官の監察を目的とする官職で、太政官に所属していました。歴史的には、巡察使は国家の各地に去った国内の状況を把握し、民の声を届ける重要な役割を果たしてきました。

概要と任務

巡察使の位置づけは『職員令』に記されています。そこでは「諸国を巡察すること」が職掌として明記されており、必ずしも常設ではなく、その都度、清廉な官人から選抜されて任命されるという非常に柔軟な制度です。巡察する内容や使節構成も、その時の必要に応じて決定されました。この制度は、唐の巡察使制度を模倣したものと言われています。

典型的には、巡察使は日本の中心部である畿内から七道に分かれ、国司や郡司の治績や百姓の生活状態を確認し、地域の窮状を調査する任につきました。したがって、巡察使の業務は、按察使や鎮撫使に似た要素も持ち合わせていました。

初期の歴史

巡察の存在が初めて確認されたのは『日本書紀』巻第二十九に記されており、685年に天武天皇の時代に始まったとされます。この時、国司や郡司、百姓の状況を確認するための使者が派遣されました。また、「巡察使」という言葉が使われたのは、持統天皇8年（694年）からです。その後、文武天皇の治世においても、巡察使が畿内に派遣され、非違を捜索する活動が行われました。

巡察の制度の変遷

その後、元明天皇の治世には、巡察を毎年行うよう詔が出され、さまざまな社会問題、例えば貧富の差や民の損失を調査する役割が与えられました。718年には、百姓が不当な課役を逃れる事例が増加したため、国司や郡司の善政が求められるようになりました。この時期には、巡察使が国司の政績を確認し、民事訴訟や税金の不正納入があった場合には、厳しい罰則が課されるようになっていました。

巡察使制度の成熟

718年以降、巡察使は毎年派遣されるのが常態となり、役職の評価も厳格化されました。その期間には、国の政策に反する行動をした官吏は、顕戮されることが正され、国家財政に寄与する人々が高く評価されました。たとえば、738年には、隠田に関連する問題の調査が行われ、性善説に基づいて評価が見直されることがありました。

また、742年には、国司や郡司が施政を適切に行わない場合、巡察使によって罪が厳しく問われるようになったため、民の生活の安定に寄与する役割がより一層強化されました。

巡察使制度の終焉

しかし、律令国家における巡察使制度は、徐々にその役割が縮小し、795年には巡察使の派遣が取りやめられ、その後は約30年後の824年に藤原冬嗣の提案によって再設置が試みられましたが、結局はその後の記録において巡察使が再び機能を果たすことはありませんでした。832年には完全に廃止され、その存在は古代日本にとって重要な制度としての記憶として残されることになります。

まとめ

このように巡察使は、日本の律令国家における重要な監察機関であり、地方行政の健全性を保つための制度として幅広く機能してきました。彼らの活動は、国家と地方政府の繋がりを深め、民衆の声を反映させる役割を果たしたと言えます。巡察使の存在は、日本の地方官制における革新をもたらし、その後の官制に大きな影響を与えました。

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