工場の出口

1895年にルイ・リュミエールによって製作された短編ドキュメンタリー映画『工場の出口』（フランス語: La Sortie de l'usine Lumière à Lyon）は、世界で初めて商業公開された実写映画として、映画史において極めて重要な位置を占める作品です。約50秒という短い上映時間ながら、初期映画の記録として現在も広く知られています。

内容

本作は、フランスのリヨン近郊に位置するリュミエール工場の敷地から、その日の仕事を終えた労働者たちが退場する一連の光景のみで構成されています。登場人物の多くは女性であり、彼らが大きな建物から次々と外に出てくる様子が、定点カメラによって淡々と記録されています。この場面は、当時のフランスにおける産業労働者たちの日常の一端を垣間見せる貴重な映像資料となっています。

バージョン

『工場の出口』には、少なくとも三種類の異なる撮影バージョンが存在することが確認されています。これらのバージョン間には、登場人物の服装や背景の植生に変化が見られ、これはそれぞれ異なる季節に撮影されたことを示唆しています。また、画面内に馬車が登場するか否か、そして馬車の牽引に用いられている馬が一頭か二頭かによって区別され、「一頭の馬バージョン」「二頭の馬バージョン」「馬がいないバージョン」として通称されています。こうした複数のバージョンが存在する事実は、リュミエール兄弟が初期の撮影実験や公開における反応などを踏まえ、繰り返し同じ題材に取り組んでいた可能性を示唆しています。

製作背景

本作は、リュミエール兄弟が開発した革新的な装置「シネマトグラフ」を用いて撮影されました。シネマトグラフは、撮影・現像・映写という一連の機能を一台に集約した画期的な機材であり、これにより映画製作と上映の可能性が大きく広がりました。撮影はルイ・リュミエール自身によって、彼らの拠点であるリヨンで行われました。そして、この映画は1895年12月28日、パリのキャピュシーヌ大通りにあるグラン・カフェにおいて、他の九つの作品と共に世界で初めて有料公開されました。この出来事こそが、「映画の誕生」として後世に語り継がれる歴史的な瞬間となりました。

技術仕様

初期リュミエール作品の多くと同様に、『工場の出口』も35ミリメートルフィルムが使用されています。画面アスペクト比は1.33:1、標準的なフレームレートは毎秒16フレームでした。この仕様に基づけば、約50秒の上映時間は約800フレーム、フィルムの長さは約17メートルに相当します。これらの技術的特性は、当時の映画メディアが備えていた基本的な構造を示しており、以降の映画技術発展の礎となりました。

歴史的意義

『工場の出口』が持つ最大の意義は、それが単なる記録映像に留まらず、世界で初めて商業的な成功を収めた実写映画であったという点にあります。映画が単なる科学的な実験や好奇の対象から、大衆が料金を支払って楽しむ娯楽へと変貌する第一歩を記した作品として、その価値は計り知れません。リュミエール兄弟は、人々の日常的な風景を「動く写真」として捉え、それを公開することで、新たな文化産業の扉を開いたのです。

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