左近の少将

左近の少将：出世欲と打算の奔流に翻弄された男

源氏物語宇治十帖に登場する左近の少将は、物語後半を彩る重要な脇役です。優れた学才と人望に恵まれながらも、経済的な困窮を抱えるという複雑な境遇に置かれています。彼の行動は、常に自身の出世という願望と、打算的な計算によって規定されています。

常陸介への接近と浮舟との婚約破棄

左近の少将は、権力と財力を有する常陸介への接近を図り、その後ろ盾を得て出世しようと企てます。その過程で、身分は低いものの教養と美貌を兼ね備えた浮舟との婚約を結びます。しかし、彼の浮舟への愛情は、あくまでも常陸介への接近手段に過ぎませんでした。仲人を通じて、浮舟が常陸介の娘ではなく、常陸介からも寵愛されていないことを知ると、あっさりと婚約を破棄します。その際、浮舟を「いくらでもいる女」と酷評したと伝えられ、その軽率な言動は周囲に大きな衝撃を与えます。

常陸介の娘との結婚と出世への道

浮舟との婚約破棄後、左近の少将は常陸介の実の娘と結婚し、常陸介からの援助を得て、着実に官位を昇進させます。彼は浮舟との婚約期間中にはその容姿や教養を絶賛していましたが、婚約破棄後は浮舟を軽蔑する発言をするなど、打算的な性格の一端を垣間見せます。

周囲の評価と物語における役割

浮舟の母や乳母は、左近の少将との婚約破棄を深く悲しみます。その悲嘆は、浮舟が宇治の中君に身を寄せるきっかけとなります。皮肉にも、その後浮舟が匂宮や薫から求愛を受けるようになると、左近の少将は、彼らと比較され、その取るに足りない人物像が浮き彫りにされます。物語において、左近の少将は浮舟の人生に大きな影を落とす存在として描かれ、彼の打算的な行動が悲劇的な連鎖を引き起こす一因となっています。

各巻における左近の少将

左近の少将は、『東屋』『浮舟』『蜻蛉』の三帖に直接登場します。それぞれの帖における彼の行動を簡単にまとめると以下のようになります。


東屋: 浮舟との婚約、そしてその破棄。常陸介の娘との婚約。
浮舟: 常陸介の娘を妻として、常陸介の婿という立場を確立。
* 蜻蛉: 妻の出産と盛大な祝宴。

まとめ

左近の少将は、優れた才能を持ちながらも、出世欲と打算的な性格によって、浮舟や周囲の人々に大きな苦しみを与えた人物です。彼の行動は、権力と財力への執着、そして自己中心的で軽率な性格を浮き彫りにしています。物語においては、浮舟の悲劇的な運命の一端を担う、重要な脇役として描かれています。彼の存在は、物語全体に漂う虚しさや悲劇性をさらに際立たせています。

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