巨人 (オペラ)

セルゲイ・プロコフィエフ幻のオペラ『巨人』

セルゲイ・プロコフィエフが作曲したオペラ『巨人』（ロシア語: Великан）は、彼がわずか9歳の時に家族で上演するために書かれた全3幕の作品です。現存するのは全12ページの楽譜のみで、その全貌は謎に包まれています。

作曲の経緯

8歳にして既に複数のピアノ曲を作曲していたプロコフィエフは、両親に連れられてモスクワで初めてオペラを鑑賞します。ボロディンの『イーゴリ公』やグノーの『ファウスト』に感銘を受けた彼は、自身もオペラを作曲したいと熱望し、3幕6場のリブレットを書き上げました。音楽は母親の助けを借りて編曲され、筋書きは友人との遊びから着想を得ています。

翌年、プロコフィエフのおじが所有する地所で、家族の手によって第1幕が初演されました。おばがタイトル・ロールを演じ、プロコフィエフやいとこ達が主要な役を演じましたが、残念ながら、これ以外の公演記録は残っていません。

あらすじ

オペラは散逸したと見られていますが、音楽学者イスラエル・ネスティエフが音楽からの抜粋を引用しています。あらすじは、恐ろしい巨人が少女ウスティニアを誘拐しようとするのを、友人セルゲーエフとエゴロフが善良な王の助けを得て救出するというもの。しかし、プロコフィエフの母親によると、オペラの結末は王が巨人に打ち負かされるというものだったそうです。彼女は、当時の政治体制を考慮して、若いプロコフィエフが検閲を避けるために結末を変えざるを得なかったと述べています。この点は研究が進んでいません。

評価

プロコフィエフ自身は、リハーサルで緊張のあまり間違ったパートを歌ってしまったと回想していますが、6人の聴衆からは拍手が送られ、おじからは「君のオペラが帝国の劇場で上演されるようになったなら、処女作が上演されたのは私の家だったということを思い出してほしい」という言葉を贈られました。

アンドレイ・ネクラソフによるプロコフィエフのドキュメンタリー番組『The Prodigal Son』（1991年）には、『巨人』の初演を再現した場面が登場しますが、実際にはいとこが担当した伴奏をプロコフィエフ自身が行っているなど、描写に不正確な点が見られます。

まとめ

『巨人』は、プロコフィエフの初期の才能を示す貴重な作品であり、彼の音楽的ルーツを知る上で重要な資料です。散逸してしまった部分が多く、その全貌を解明することは困難ですが、残された情報から彼の創造性と幼少期の情景を垣間見ることができます。

もう一度検索