市川團蔵 (6代目)

六代目市川團蔵は、1800年（寛政12年）に誕生した江戸時代後期の歌舞伎役者です。屋号は三河屋、定紋は縦長の三升、替紋は結び柏を使用していました。俳名は三猿、團猿、雅号は市紅庵、松秀舎と多彩な名前で活躍しました。

彼の父は、四代目市川團蔵の門弟である初代市川荒五郎でした。1805年（文化2年）、市川昭世の名で初舞台を踏み出し、華々しい歌舞伎の世界に足を踏み入れました。その後、七代目市川團十郎の門下に入り、市川三蔵と改名、さらに初代市川茂々太郎と改名するなど、若い頃から積極的に活動の場を広げていきます。子供芝居にも出演するなど、幅広い層に人気を博しました。

活動拠点は江戸にとどまらず、上方や九州にも及びました。1831年（天保2年）には、大坂で初代市川白蔵と改名し、さらに1834年（天保5年）には江戸に戻り、二代目市川九蔵を襲名するなど、精力的に活動しています。その後も、江戸と上方を往復しながら、数々の舞台で観客を魅了しました。

転機が訪れたのは、1852年（嘉永5年）のことです。五代目市川團蔵の未亡人の養子となり、同年10月、大坂角の芝居『金烏玉兎倭入船』で、ついに六代目市川團蔵を襲名しました。これは、歌舞伎役者として大きな飛躍を遂げた瞬間と言えるでしょう。

六代目市川團蔵は、小柄な体格ながらも、様々な役柄を巧みに演じ分けたことで知られています。しかしながら、その芸風は地味であり、派手さや華やかさに欠けていたため、人気はそれほど高くなかったと伝えられています。

それでも、彼は初代團蔵と二代目團蔵が得意とした演目を集大成した『古劇八種』をまとめるなど、市川團蔵家のお家芸を継承し、発展させる上で重要な役割を果たしました。これは、彼の歌舞伎への深い理解と、伝統への強いこだわりを示すものです。

また、彼は七代目市川團蔵を養子として迎え入れ、その後の市川團蔵家の発展にも貢献しました。後進の育成にも力を注ぎ、歌舞伎界全体に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

1871年（明治4年）10月22日、六代目市川團蔵は生涯を閉じました。彼の墓所は、東京都台東区谷中の天王寺墓地にあります。小柄な体格ながら、様々な役をこなした六代目市川團蔵。地味ながらも確かな芸風と、後世への貢献は、今もなお歌舞伎界にその名を残しています。彼の生き様は、歌舞伎役者としての誇りと責任感、そして伝統への深い愛情を物語っています。

参考文献：野島寿三郎編　『歌舞伎人名事典』（新訂増補）　日外アソシエーツ、2002年

もう一度検索