市川猿翁 (2代目)

二代目市川猿翁の生涯と業績

二代目市川猿翁（にだいめ いちかわ えんおう）は、1939年12月9日に東京都で生まれた歌舞伎役者、俳優、演出家です。彼の生涯は、歌舞伎の伝統を守りつつも革新を追求したものであり、多くの演出や舞台でのパフォーマンスによって歌舞伎界に新しい風を吹き込んだ人物です。彼は定紋として澤瀉を、替紋として三つ猿を使用し、屋号は澤瀉屋です。

彼の本名は喜熨斗政彦（きのし まさひこ）であり、また彼自身の俳名に華果（かか）を持っています。さらに、紫派藤間流の二代目家元としても名を馳せ、歌舞伎という伝統芸能の重要な継承者として存在感を示しました。猿翁という隠居名で親しまれ、三代目市川猿之助としても広く知られています。

歌舞伎界への道

若いころ、猿翁は市川團子として六代目市川染五郎や中村萬之助らと共に「十代歌舞伎」として人気を博しました。しかし、三代目猿之助を襲名した直後に祖父や父を相次いで失うという悲劇に見舞われ、その後は歌舞伎界で「梨園の孤児」として孤立した状況となりました。そんな逆境にあっても、他門の助けを求めず、独自の芸術を追求し続けました。

猿之助歌舞伎の革新

1968年に演じた『義経千本桜』の「四ノ切」では「宙乗り」を行い、この演出は猿之助歌舞伎として新たな評価を得る契機となりました。彼の「猿之助歌舞伎」は、従来の歌舞伎とは一線を画し、エンターテインメント性の高い演出が多くの観客から支持を受けるようになりました。しかし、初めは厳しい批評を受けることも多く、特に伝統を重んじる保守的な役者や劇評家から「喜熨斗サーカス」とまで揶揄されたこともあるほどです。それでも猿翁はその批判を乗り越え、歌舞伎界の新しい道を切り開きました。

彼のデビュー当初、宙乗りは三代目實川延若から教わり、その後多くの後進の役者もこのスタイルを取り入れ、その影響は広がっていきました。また、1984年には通常とは異なり、客席の頭上を飛び交う宙乗り演出を日本で初めて行うなど、果敢な挑戦が続きました。

晩年の活動

2003年には体調を崩し、脳梗塞と診断され、その後は舞台への出演が減少しましたが、優れた演出家としての役割を続けました。2012年には自身の隠居名を襲名し、2013年には最後の舞台を務めました。2023年には83歳で亡くなり、死去の日には旭日中綬章が贈られるなど、彼の功績は高く評価されました。

家族と私生活

猿翁は母が映画女優の高杉早苗であり、妹に女優の市川靖子、弟には四代目市川段四郎がいます。二度の結婚を経て、一人息子の香川照之（のちの九代目市川中車）を育てることとなりましたが、私生活ではさまざまな波乱がありました。特に、日本舞踊の藤間紫との関係が注目され、猿翁は彼女との生活からも多くの影響を受けたことが知られています。

猿翁の生涯は情熱的であり、歌舞伎という伝統芸能における革新者としての足跡が色濃く残されています。その業績は今後も多くの人々に感動を与え続けることでしょう。

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