市川鰕十郎 (初代)

初代市川鰕十郎：江戸歌舞伎を彩った名優の生涯

初代市川鰕十郎は、安永6年(1777年)から文政10年(1827年)まで生きた、江戸時代を代表する歌舞伎役者です。屋号は播磨屋、俳名は市鶴、新升と名乗っていました。

彼のキャリアは、四代目市川團蔵の門人として始まりました。寛政元年(1789年)、わずか12歳で「市川市蔵」を名乗り、大坂北新地芝居で初舞台を踏みます。子供芝居での活躍が評判となり、順調にキャリアを重ねていきました。寛政11年(1799年)には大芝居に出演、文化5年(1808年)には『八陣守護城』で佐藤正清役を師匠の代役として務めるなど、若手ながら実力を示しました。

その才能は瞬く間に評判となり、翌年には江戸に招かれます。江戸では、『仮名手本忠臣蔵』の七役早替りを見事に演じきり、人気を博しました。その後、一時「市の川市蔵」を名乗る時期もありましたが、文化12年(1815年)、上方出身の先輩役者である三代目中村歌右衛門に才能を見出され、七代目市川團十郎に入門。そして「初代市川鰕十郎」と改名、師匠である團十郎から貴重な品々を拝領するなど、一門の中心的存在となりました。

團十郎門下入り後、同年11月には歌右衛門と共に大坂で凱旋興行を行い、大成功を収めます。『忠臣蔵』七役をはじめ、『太平記忠臣講釈』の矢間喜内、『雁金五人男』の雷庄九郎など、数々の名役を演じ、観客を魅了しました。その後も東西の舞台を精力的に活動し、名優として高い評価を得ました。

鰕十郎は、優れた口跡と、早替りや立ち回りといった派手な芸にも長けていました。彼の演技は、観客を惹きつけ、歌舞伎界に大きな足跡を残しました。晩年の辞世の句は「送り火とともに消へゆく旅路かな」、「西方の雲ありがたし盃の月」と伝えられています。大阪市中央区三津寺大福寺に墓所があり、戒名は蘭有秀山信士です。

初代市川鰕十郎は、子に二代目市川鰕十郎、門人に三代目市川鰕十郎を輩出しました。彼の血筋、そして教えは、後世の歌舞伎役者たちに受け継がれ、発展していったのです。彼の活躍は、江戸時代歌舞伎史における重要な一頁を飾るものと言えるでしょう。

参考文献

* 野島寿三郎編　『歌舞伎人名事典』（新訂増補）　日外アソシエーツ、2002年

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