市村英彦

市村 英彦（いちむら ひでひこ）

市村英彦氏は、計量経済学分野における第一線の経済学者です。現在、米国のアリゾナ大学と日本の東京大学で教授として教鞭を執り、研究活動を展開しています。特に、複雑な推定問題の前提条件を深く掘り下げ、また政策の効果を正確に測るための新しい手法の開発とその応用に取り組んでいます。

生涯と学歴

1981年3月、市村氏は大阪大学経済学部経済学科を卒業しました。その後、計量経済学の研究をさらに深めるため渡米し、マサチューセッツ工科大学（MIT）で経済学の博士号（Ph.D.）を1988年1月に取得しました。MITは経済学、特に計量経済学の分野で世界をリードする研究機関の一つであり、ここで培われた高度な分析手法と理論的基礎が、その後の輝かしいキャリアの礎となりました。

職歴

博士号取得に先立つ1987年9月には、すでにミネソタ大学経済学部で助教授の職に就いています。米国での研究キャリアをスタートさせた後、1996年9月にはピッツバーグ大学経済学部へ移籍し、ここでも助教授を務めました。ピッツバーグ大学では、1998年9月に准教授へと昇進し、研究者としての地位を確立しました。

1999年7月、活動の場を英国に移し、名門ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン（UCL）経済学部に準教授（Reader）として迎え入れられました。UCLでは、2000年10月には教授に昇格し、欧州における計量経済学研究の中心人物の一人となります。国際的な環境で多様な研究者と交流し、その学識をさらに深めました。

2005年4月からは、日本の東京大学に移り、公共政策大学院（2016年まで兼任）および大学院経済学研究科の教授を務めました。母国日本の最高学府で後進の指導にあたるとともに、国内の経済学研究の発展に貢献しました。

その後、2018年8月からは米国のアリゾナ大学の教授に着任し、再び海外を主要な研究拠点の一つとしています。現在も、アリゾナ大学と東京大学の両方で教鞭を執り、国際的な視点から計量経済学の研究と教育を進めています。

研究業績と功績

市村氏の主要な研究テーマは、計量経済学における様々な推定を行う際に必要となる前提条件の厳密な検証、そして政策が経済や社会に与える影響を科学的に測定するための手法の開発とその実践への応用です。複雑なデータから信頼できる知見を引き出すための理論的・実践的な貢献は、この分野の研究者に大きな影響を与えています。

その学術的貢献は国内外で高く評価されており、2007年には計量経済学分野で最も権威ある国際学会の一つであるエコノメトリック・ソサイエティ（Econometric Society）の終身フェローに選出されました。これは、世界の限られたトップ研究者のみに与えられる栄誉です。

また、日本の経済学界においても指導的な役割を果たしており、2019年6月から2020年5月にかけては、日本経済学会の会長を務めました。日本の経済学研究の推進と国際的なプレゼンス向上に尽力しました。

著書

市村氏は共編者として、日本の経済学の「今」を知る上で重要な書籍を刊行しています。

『現代経済学の潮流2007』小川和夫, 二神孝一, 伊藤秀史との共編著として、東洋経済新報社より2007年8月刊行。
『現代経済学の潮流2008』池田新介, 浅子和美, 伊藤秀史との共編著として、東洋経済新報社より2008年8月刊行。
* 『現代経済学の潮流2009』池田新介, 伊藤秀史との共編著として、東洋経済新報社より2009年9月刊行。

これらのシリーズは、当時の日本の経済学研究における主要なテーマや成果を紹介するものであり、多くの研究者や学生にとって貴重な情報源となっています。

市村英彦氏の、国際的な視野と深い専門知識に基づいた計量経済学への貢献は、今後もこの分野の発展に寄与していくでしょう。

もう一度検索