帝都座

帝都座は、昭和初期から約40年間、東京都新宿の地に存在した複合エンターテイメント施設です。1931年5月1日に、当時の株式会社帝都座によって開館。黎明期は日活映画の新作をいち早く公開する封切館としての役割を担い、高橋是清の二男である高橋是福が初代社長を務めました。

その建物は地上7階、地下2階という規模を誇り、壮麗な外観と機能性を兼ね備えていました。観客席は3階まで設けられ、優に1200人以上を収容できる巨大な空間でした。施設内には、5階にダンスホール、地下1階には大食堂が設けられており、映画鑑賞だけでなく様々な娯楽を提供する場として設計されていました。開館当時の「キネマ週報」によれば、設計は僊石政太郎の手によるものと伝えられています。

時代が下り、1940年には時局の変化に伴いダンス禁止令が施行され、5階のダンスホールはその幕を閉じました。同年の11月には、帝都座の経営権が東京宝塚劇場（後の東宝）のもとへ移ります。ダンスホールの跡地には、1942年に東宝と吉本興業が連携する形で帝都座演芸場が開設され、寄席演芸の新たな拠点となりました。

第二次世界大戦終結後、東京宝塚劇場の社長となっていた秦豊吉の指揮のもと、5階の空間をレビュー劇場として再生させる計画が進められます。準備期間を経て、1947年に定員420名の新たな劇場がオープン。ここで幕を開けたのが、当時の興行界に大きな波紋を投げかけたバラエティショーの一幕、「額縁ショー」でした。これは、文字通り大きな額縁の中でモデルが絵画の登場人物のように静止するという「活人画」を基調としたものでした。

特に注目を集めたのは、神話や名画を題材とした演目でした。最初の演目「ヴィナスの誕生」では、当初中村笑子がモデルを務めましたが、後に甲斐美和に交代。第2回公演「ラ・パンテオン」におけるルーベンスの「アンドロメダ」を再現したショーでは、甲斐美和が乳房を露出し、そのセンセーショナルな演出が話題となりました。また、「東郷青児アルバム」という演目では、額縁の中のモデルが動き出し、ダンスを披露するといった演出も試みられました。後期には原京子などもモデルとして出演しています。

1947年以降、5階の劇場では「額縁ショー」と並行して演劇公演も盛んに行われるようになります。劇団東童による「春の目ざめ」や、空気座の「肉体の門」、そして「春香伝」といった作品が上演されました。1948年には薔薇座による「堕胎医」が公演され、同年には「思い出のアルバム 第一集」の中で片山マリが額縁から抜け出し、乳房を見せたまま踊り狂うという、さらに踏み込んだ演出が行われました。これらの公演は、戦後日本の表現の自由と大衆文化の一端を示すものでした。

しかし、わずか数年で5階の劇場はその役割を終えます。1948年には閉場となり、この頃には初期の経営母体であった日活の影響力が再び強まっていました。5階劇場に代わって、日活直営の「帝都名画座」として洋画の上映が開始されます。

1950年6月、株式会社帝都座は完全に日活株式会社に吸収合併されます。翌1951年9月には、メインの映画館が「新宿日活映画劇場」、名画座が「日活名画座」と名称を変更。さらに1954年6月には、日活が自社での映画製作を再開したことに伴い、再び日活作品の封切館としての機能を取り戻しました。

1970年5月には、映画配給会社の再編によりダイニチ映配が発足。これに合わせて「新宿日活映画劇場」は「新宿日活オスカー劇場」と改称され、洋画の封切館として新たな道を歩みます。しかし、それも長くは続かず、1972年5月、新宿日活オスカー劇場および日活名画座の土地建物が丸井に約27億8500万円で売却されたことで、その歴史に終止符が打たれました。約40年にわたる帝都座の歴史は、映画館、劇場、演芸場として、また時にはセンセーショナルなショーの舞台として、新宿の街を見守り続けた軌跡でもありました。

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