ダイニチ映配

ダイニチ映配株式会社：斜陽期映画界の縮図

1970年からわずか1年でその歴史を閉じたダイニチ映配株式会社。この短命に終わった映画配給会社は、1960年代後半の日本の映画界の激動を象徴する存在と言えるでしょう。本稿では、ダイニチ映配の設立から崩壊に至るまでの経緯、その背景にある日本の映画産業の斜陽化、そして制作された作品群について詳細に考察します。

設立の背景：日活と大映の苦境

1950年代後半から、日本の映画産業はテレビの普及による観客数の減少、制作費の高騰、そしてスター俳優の流出といった問題に直面していました。日活と大映も例外ではなく、経営は悪化の一途を辿っていました。

日活は石原裕次郎、小林旭らを中心としたアクション路線のマンネリ化、そして青春路線の衰退に苦しんでいました。加えて、社長のワンマン経営も経営悪化を招いた要因の一つでした。1960年代末には、所属俳優の独立や本社ビルの売却を余儀なくされるなど、深刻な経営危機に陥っていました。

大映も同様の苦境にありました。特撮映画『大魔神』シリーズやテレビドラマ『ザ・ガードマン』といったヒット作もありましたが、人気スターの離脱、経営難は避けられませんでした。山本富士子の解雇、長谷川一夫の引退、勝新太郎の独立、田宮二郎の解雇、そして市川雷蔵の死去と、看板スターを失い続けたことが経営を圧迫しました。

このような状況下で、日活と大映は配給網を統合し、ダイニチ映配を設立することに至ったのです。これは、生き残りをかけた苦肉の策でした。

ダイニチ映配時代：2本立て興行と新路線

1970年6月、大映専務の松山英夫を社長、日活常務の壺田重三を副社長とするダイニチ映配が誕生しました。両社の配給網が統合され、新作は日活と大映が1本ずつ持ち寄り、2本立てで公開する方式が主流となりました。

経営状況は依然として厳しく、制作費の削減が余儀なくされました。その中で生まれたのが、「暴力・エロ・グロ」を前面に出した作品群です。日活からは『野良猫ロック』シリーズ、『ハレンチ学園』、『八月の濡れた砂』といったアナーキーな作品が、大映からは『でんきくらげ』、『十代の妊娠』といったジュニア・セックス・シリーズが輩出されました。

これらの作品には、関根恵子（現・高橋惠子）、篠田三郎、松坂慶子、夏純子、沖雅也といった、後に活躍する若手俳優も多数出演しています。また、石原裕次郎と若尾文子の共演作『スパルタ教育くたばれ親父』など、両社のスターが共演する作品も制作されました。

崩壊とその後：日活ロマンポルノと大映の倒産

しかし、ダイニチ映配の経営は悪化の一途を辿り、1971年には崩壊しました。日活は映画製作を中断し、ダイニチ映配から離脱。そして、同年11月、成人映画路線「日活ロマンポルノ」を開始しました。

大映はダイニチ映配崩壊後、単独配給を再開しましたが、1971年12月には破産宣告を受けました。これは、永田雅一社長の経営方針、特に映画製作へのこだわりと資金配分の問題が大きく影響した結果でした。

ダイニチ映配の崩壊は、1960～70年代の日本の映画界の転換期を象徴する出来事でした。日活と大映というかつての雄は、それぞれ新たな道を歩むことになります。ダイニチ映配は短命に終わったものの、その存在は日本の映画史において特筆すべきものです。そして、その短い歴史は、日本の映画産業の変遷を如実に映し出していると言えるでしょう。

もう一度検索