師管区部隊

師管区部隊とは

師管区部隊（しかんくぶたい）は、第二次世界大戦末期の1945年（昭和20年）4月、大日本帝国陸軍によって編成された部隊の一種です。その主な目的は、管轄区域における徴兵、動員業務の円滑な実施と、地域防衛体制の強化にありました。この部隊は、それまで同様の任務を担ってきた留守師団を改称したもので、師管区司令官の指揮下に置かれ、師管区司令部や各種補充隊などによって構成されていました。日本の敗戦後もしばらく存続し、治安維持や復員（部隊の解散）に関する業務を統括しましたが、同年11月までに廃止されました。

設置の経緯

師管区部隊の新設は、戦局の悪化と本土決戦の危機が迫る中で決定されました。1945年2月9日には、従来の師団司令部令が師管区司令部令へと改められ、これに続く2月28日の軍令陸甲第34号をもって、師管区部隊の臨時動員が命じられました。部隊の編成は3月下旬から4月上旬にかけて完了することが予定されており、4月1日には各師管区司令官が一斉に任命され、部隊が正式に発足しました。

師管区部隊が生まれる以前は、国内の訓練や動員、地域防衛といった任務は、その地域に常駐する師団が担当していました。もし師団が戦争などで管轄区域を離れることになった場合、別途臨時に編成される留守師団がその業務を引き継ぐ仕組みでした。しかし、日中戦争が始まった1937年頃からは、ほとんどの師管（師団の管轄区域）に留守師団が常設されるような状況になっていました。本土決戦が現実味を帯びてくると、これらの留守師団も本来の任務に加え、防衛戦闘の準備に追われるようになります。

師管区部隊への改称は、実質的には留守師団の名称を変更したに過ぎませんでしたが、「留守」という臨時的な位置づけを改め、地域防衛の責任を部隊の主要な任務として明確にさせる意図があったと考えられます。司令部については、留守師団司令部をそのまま改称しましたが、補充隊に関しては、留守師団に属していたものを一度解散させ、師管区部隊所属として新たに編成するという形式が取られました。

編成と役割

師管区部隊は、当時の日本と朝鮮を区分した19の師管区それぞれに1個ずつ配置されました。これらの部隊は軍管区司令官の指揮下にあり、広域を担当する軍管区部隊の一部を構成しました。同年6月22日には、四国地方と中国地方の師管区が軍管区に昇格したことに伴い、該当地域の師管区部隊も軍管区部隊と名称を変えたため、師管区部隊の数は17となりました。

各師管区部隊は、その所在地の師管区の名を冠して呼ばれました。例えば、弘前師管区に置かれた部隊は「弘前師管区部隊」という名称でした。典型的な構成は、師管区司令部のほか、歩兵、砲兵、工兵、通信、輜重兵といった各種補充隊によって成り立っていました。補充隊は、新兵を教育・訓練するための組織であり、歩兵補充隊は通常2から5個、その他の補充隊は1個ずつ編成されました。これらの補充隊も、「弘前師管区歩兵第1補充隊」のように、師管区名と兵科名、番号を冠した名称が与えられました。補充隊は、その名称に含まれる都市に置かれることが多かったものの、例外もあり、特に歩兵補充隊は師管区内の様々な地域に分散配置される傾向がありました。補充隊の下には大隊が置かれていました。なお、戦車部隊や一部の砲兵、電信部隊などの補充隊は、師管区部隊ではなく、より上位の軍管区の所属となっていました。

師管区司令部は、傘下の補充隊を統括するほか、師管区からの兵員動員に関する管理業務などを担当しました。この動員業務を遂行するため、各府県に設置されていた連隊区司令部を指揮下に置きました。連隊区司令官は、同一地域を担当して地区防衛の任務にあたる地区司令官の職務を兼ねることが多くありました。地区司令官の下には、多数の地区特設警備隊が編成されていました。

1945年4月以降、師管区部隊には多くの特設警備隊（特に特設警備工兵隊）や地区特設警備隊が加えられました。特設警備隊は、平時は民間の仕事に従事しており、敵の接近などに際して防衛召集される部隊です。地区特設警備隊も同様の性質を持ちますが、「郷土の中核となる人物」とされる熱意ある者、すなわち在郷軍人会の幹部などが選ばれ、地域の防衛努力と連携させる意図があった点が異なります。これらの部隊は性質上、機動性が乏しく、必要に応じて召集と解除を行う必要があったため、管区業務を担当する師管区司令部の指揮下に入ることが合理的であったと言えます。

指揮系統においては、軍管区司令部と方面軍司令部、また連隊区司令部と地区司令官の間で要員が兼務することが多く、複雑な構造を呈していました。師管区司令部の指揮下にある連隊区司令部・地区司令部の数や、配属される特設警備隊などの部隊数も、地域や時期によって異なりました。

終戦と解散

1945年8月15日の敗戦後、大日本帝国陸軍の各部隊は順次解散が進められました。しかし、師管区部隊は、占領下の治安維持や、混乱なく復員業務を統制するためにしばらくの間維持され、徐々に人員が縮小されていきました。この過程で、先に解散した他の部隊から一部の将兵を師管区部隊へ転属させるという措置も実施されました。同年11月30日に陸軍省が解体されると、師管区司令部も復員を迎え、師管区部隊もこれに伴って解散されたと考えられています。

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