帰ってきたヒトラー

『帰ってきたヒトラー』

ティムール・ヴェルメシュによる風刺小説『帰ってきたヒトラー』（原題：Er ist wieder da 「彼が帰ってきた」）は、2012年に発表され、2010年代のドイツに突如として蘇ったアドルフ・ヒトラーが引き起こす騒動を描いています。ドイツ国内でベストセラーとなり、映画化もされました。

物議を醸した内容

この作品は、ヒトラーに対する肯定的な描写が含まれていることから、発表当初から物議を醸しました。しかし、ヴェルメシュ自身は、ヒトラーを単純に悪魔化するだけでは、その危険性を十分に指摘できないと考え、リアルなヒトラー像を表現するために、あえて彼の優れた面も描き出したと述べています。

あらすじ

1945年に自殺したアドルフ・ヒトラーは、自殺直前の記憶を失った状態で、2011年のベルリンの空き地で目を覚まします。自分がいる時代が2011年であることに衝撃を受けた彼は、キオスクで介抱されたことをきっかけに、コメディアンとしてテレビに出演することになります。

トルコ人を罵倒する演説がYouTubeで人気を博し、一躍有名になったヒトラーは、社会の反響を巻き起こし、ドイツで最も有名なコメディアンとなります。彼は自身の人気を「ナチズムを支持する国民の声」と解釈し、再び政界に進出することを考え始めます。

しかし、ネオナチからの襲撃を受け重傷を負ったことで、社会は彼を「ネオナチの暴力に立ち向かうヒーロー」として持てはやすようになり、政界からも入党依頼が殺到します。療養先の病院で、ヒトラーは社会の動きを観察しながら、司会を任された新番組の構想と選挙運動の準備を進めていました。

登場人物

アドルフ・ヒトラー: ナチス・ドイツの総統。2011年のドイツにタイムスリップし、再び政界復帰を目指す。
カルメン・ベリーニ: テレビ番組制作会社・フラッシュライト社の女性副社長。ヒトラーの才能を見抜き、コメディアンとして採用する。
ヨアヒム・ゼンゼンブリンク: フラッシュライト社の社員。ヒトラーをコメディアンとしてスカウトする。
フランク・ザヴァツキ: フラッシュライト社の社員。ヒトラーのトーク（演説）に感激し、番組作りに協力する。
ヴェラ・クレマイヤー: フラッシュライト社の女性社員。ヒトラーの秘書として事務処理を担当する。
アリ・ジョークマン: フラッシュライト社所属の人気コメディアン。ヒトラーに人気を奪われ、煙たがっている。
ウルフ・ブロンナー: フラッシュライト社の助監督。ヒトラーの番組の撮影クルーのリーダー。
ウーテ・カスラー: ヒトラーのトーク（演説）を批判するビルト紙の女性記者。
ベアテ・ゴルツ: 大手出版社の女性編集者。ヒトラーに本の執筆を持ちかける。
イルムガルト: ヒトラーが入院した病院の看護婦。ヒトラーから好意を寄せられている。
ホルガー・アプフェル: ドイツ国家民主党の党首。ヒトラーから「民族主義を理解していないならず者」と批判される。
レナーテ・キュナスト: 緑の党の元党首。ヒトラーの番組にゲスト出演し、政策におけるナチスとの親和性を指摘される。
* ジグマール・ガブリエル: ドイツ社会民主党の党首。ヒトラーに自党への入党を持ちかける。

出版と評価

本書の定価は19.33ユーロで、これはナチ党の権力掌握が行われた1933年にちなんだものです。2013年5月の段階で20ヶ国語での翻訳が決定。日本語版は2014年に河出書房新社から発売されました。

ユダヤ系アメリカ人向け新聞・フォワード紙は、本書を「スラップスティック」でありながら、道徳的なメッセージにたどり着く作品と評価。南ドイツ新聞紙は、作品の成功の理由として、ヒトラーを主人公に選んだこと、そして彼を漫画のような滑稽さや邪悪さをもって描かなかったことを挙げています。

映画

2015年には映画が公開され、オリヴァー・マスッチがヒトラーを演じました。映画では、ヒトラーに扮したマスッチが実際にベルリンの街中で市民と対話するアドリブ形式の撮影も行われ、ヒトラーへの忌避感が薄れていることに驚いたと語っています。

また、2016年にはイタリアでベニート・ムッソリーニを主人公にしたリメイク作品の製作権が取得され、『帰ってきたムッソリーニ』として2018年に公開されました。

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