常安寺 (長岡市)

常安寺（じょうあんじ）

新潟県のほぼ中央に位置する長岡市、かつて栃尾市として独立した歴史を持つ地域の谷内2丁目、風光明媚な秋葉山の山麓に、静かに佇む曹洞宗の古刹、常安寺があります。山号は報恩林清瀧山（ほうおんりんせいりゅうざん）と称され、地域の歴史を見守り続けてきました。

寺伝と創建の歴史

常安寺の創建については、古くから寺に伝わる由緒ある記録、すなわち寺伝がその成り立ちを今に伝えています。それによれば、戦国時代の武将として名高い長尾景虎（後の上杉謙信）が、この寺院の開基に関わったとされています。謙信公ゆかりの寺院として、その歴史的背景は非常に興味深いものと言えるでしょう。

具体的には、瑞麟寺という別の寺院の第5世住職が常安寺の開山として迎えられたと伝えられています。瑞麟寺は曹洞宗の古刹であり、その高僧によって開かれたことは、常安寺が持つ由緒と格式の高さを示すものと言えるでしょう。この創建の時期は、長尾景虎が越後の国主として勢力を確立しつつあった時代と重なるため、戦国時代の混乱期における越後の仏教文化や、武将と寺院との関わりを知る上で貴重な情報源となっています。

戦乱と移転、そして復興

戦国時代が終結し、江戸時代へと移り変わる中で、常安寺もまた激動の歴史に翻弄されました。上杉氏の家督を継いだ上杉景勝が豊臣秀吉によって会津へ、さらに徳川家康によって米沢へと移封される際、上杉氏とゆかりの深かった常安寺もまた、主君に従う形で一時的に越後から離れ、会津や米沢の地へと移転したとされています。これは、戦国大名が自らの勢力を維持・拡大する過程で、領内の重要な寺社を自領内に移すことがあった歴史的な背景を示す事例と言えます。

しかし、常安寺は故郷である越後の地を完全に離れたわけではありませんでした。一時的な移転を経て、元禄時代、具体的には元禄14年（1701年）に、かつて寺院が建立されていた現在の長岡市谷内の地に復興されました。この復興は、江戸時代に入り世情が安定した中で、上杉氏が去った後の越後、特に旧栃尾地域における地域社会の再興や、信仰の拠点の復活を願う人々の思いによって実現したと考えられます。現在、常安寺が秋葉山麓に静かに佇む姿は、この元禄の復興を経たものであると言えます。

末寺と地域における役割

常安寺は、かつてこの地域における曹洞宗の中心的な寺院の一つとして、複数の末寺を有していました。記録によれば、その末寺として以下の寺院が挙げられています。

東中俣の東光寺
原の善昌寺
泉の玉泉寺
常安寺門前の観音寺

これらの末寺の存在は、常安寺が単独の寺院としてだけでなく、地域全体の仏教信仰や文化の中心地として機能していたことを物語っています。現在も、常安寺は地域の寺院として、檀信徒の信仰生活の中心となり、様々な行事を通じて地域社会との繋がりを大切にしています。

まとめ

常安寺は、上杉謙信の開基伝承に始まり、戦国時代の移転、江戸時代の復興を経て、現代に至るまで約400年以上の歴史を刻んできた曹洞宗の古刹です。新潟県長岡市、旧栃尾地域の歴史と文化を知る上で、常安寺の存在は欠かすことのできない重要な要素であり、地域の宝として大切にされています。その静かな佇まいは、多くの歴史を見守ってきた証として、訪れる人々に安らぎと感動を与えています。

（本記述は主に「日本歴史地名大系15・新潟県の地名」（平凡社、1986年）等の文献情報に基づいて作成されています。）

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