末寺

末寺とは

末寺（まつじ）とは、本山の支配下にある寺院のことです。しかし、江戸時代の本末制度成立以前においては、今日とはやや異なった意味を持っていました。

本末制度成立以前の末寺

本末制度成立以前は、寺院を創建した発起者（本願主）の意向や、創建あるいは再興した僧侶の所属する宗派・法流に基づいて末寺関係が形成されるのが基本でした。しかし、実際には有力寺院が政治力、時には軍事力や経済力を用いて、周辺の中小寺院を屈服させ、末寺とするケースも存在しました。また、明治以前には神仏習合が行われていたため、神社が末寺として扱われることもありました。さらに、他の宗派の寺院を強制的に末寺化するような事例も見られました。

このように、江戸時代以前の本末関係は非常に複雑でした。宗派・法流の枠組みの中で、本山が末寺の別当などの役職を任命するという強い関係を持つものもあれば、末寺の荘園や布施などによる収入の一部を本山に上納させるという経済的なつながりを主体とした関係もありました。特に、他宗派の寺院や神社を末寺とする場合には、従来の宗派を維持する保障として上納を求めることが一般的でした。中には、全く形式的な関係にとどまるものも存在しました。

本末相論

本山と末寺が遠く離れていたり、利害関係で対立したり、宗派が異なる場合には、末寺が本山からの自立を試みたり、逆に本山側が末寺に対する地位や権利の確認を求める「本末相論」が発生しました。

特に有名なのは延暦寺です。延暦寺は、京都市中およびその周辺にあった祇園社や青蓮院などを傘下に収め、莫大な上納収入を得ていました。その経済力を背景に、さらに勢力を拡大しようとしました。延暦寺は、他宗派の有力寺院を末寺化することを目的とした本末相論を度々起こしました。鎌倉時代には仁和寺を末寺であると主張し、室町時代には文安の麹騒動で北野天満宮を、寛正の法難で本願寺を屈服させて延暦寺の末寺であることを認めさせました。さらに、戦国時代には京都の日蓮宗寺院21本山に対して末寺になるように要求し、拒否されると、日蓮宗宗徒と比叡山西塔の僧侶の宗論を口実に、これらの寺院を焼き払いました（天文法華の乱）。

しかし、延暦寺もかつて平安時代後期に興福寺から朝廷に対し、延暦寺を末寺と認めるように訴えられたことがありました。また、東大寺が東寺・醍醐寺を末寺とする訴えを起こすなど、朝廷や幕府、さらには宗派間を超えた論争が引き起こされました。

江戸幕府が本末制度を定め、他宗派間の本末関係を清算しようとした背景には、このような本末論争が大規模な政治・宗教対立に発展することを防ぐ意図がありました。

このように、末寺をめぐる関係は時代とともに変化し、複雑な様相を呈していました。本末制度は、宗教組織の構造を理解する上で重要な要素となっています。

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