常慶院 (長野県栄村)

信州、長野県の最北端に位置する下水内郡栄村箕作に、静かに佇む金華山常慶院は、曹洞宗の教えを伝える寺院です。この寺の本尊としては、広く信仰を集める釈迦如来が祀られています。

常慶院の歴史は非常に古く、寺院に残る江戸時代の古文書によれば、その起源は応永5年（西暦1398年）にまで遡ると伝えられています。これは室町時代の初期にあたり、この地における仏教文化の根ざしを示す貴重な記録と言えるでしょう。

特に注目すべきは、この寺が辿った数奇な運命です。戦国期から江戸時代にかけて越後などを治めた上杉氏の重要な家臣であった市河氏が、領地の変更に伴い会津地方へ移ることになった際、常慶院もまた大きな転機を迎えました。市河氏がかつてこの栄村の地に構えていた城、その役目を終えた城址の跡地に、常慶院は新たな寺地を定めたのです。これは、時の権力者の動向が寺院の存続や移転に深く関わっていた歴史的な背景を示しています。

さらに興味深いことに、山形県米沢市にも同名の常慶院が存在します。これは、上杉氏が再び米沢へと移封される際、それに従った市河氏が新たな地で建立した寺院であり、こちらの常慶院もまた寺に伝わる記録によれば、栄村の常慶院と同じく応永5年を開山としているとされています。これは、市河氏と常慶院との深いつながり、そして戦国大名の移封がいかに寺院の歴史にも影響を与えたかを示す事例と言えます。同じ名を冠し、同じ創建年を伝える二つの常慶院は、市河氏という一つの武家を通じて結ばれた縁を感じさせます。

現在の常慶院の境内において、まず目にするのが重厚な本堂と雄大な山門です。本堂は、江戸時代中期の元禄3年（西暦1690年）に再建されたものです。度重なる戦乱や自然災害を経て、この安定した時代に入って寺院が再興されたことを示しており、歴史の積み重ねを感じさせます。この本堂の中に、寺の中心的信仰の対象である本尊・釈迦如来像が静かに安置され、地域の人々の信仰を集めています。

そして、境内でひときわ存在感を放つのが、寺の正面に建つ山門です。この山門は、古来より日本の伝統建築に見られる茅葺（かやぶき）の屋根を持ち、入母屋造りの重厚な構造をしています。その規模は圧倒的に大きく、地域における常慶院の格式を示しています。伝えられるところによれば、信州を代表する善光寺から北へ数十里の広範囲において、これほど壮麗で見事な山門を備えた寺院は他に見られないと言われるほど、稀有な存在感を放っています。その雄大な姿は、訪れる者に強い印象を与え、常慶院がこの地域においていかに重要な寺院であったかを静かに物語っています。

常慶院は、古い創建の歴史、上杉氏や市河氏といった武家との関わり、そして特に優れた建築美を持つ山門など、多くの見どころを持つ寺院です。地域の歴史や文化、そして人々の信仰の営みを今に伝える貴重な存在として、栄村の地に根ざしています。

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