常磐炭坑節

常磐炭鉱節（じょうばんたんこうぶし）

「常磐炭鉱節」は、日本の近代化を支えた主要なエネルギー供給地の一つであった常磐炭田が栄えた地域、現在の福島県浜通り南部から茨城県北部にかけて古くから伝承されている民謡です。

歌の誕生と広まり

この歌が生まれたのは、常磐炭田の坑内で過酷な労働に従事していた坑員や、地上で石炭の選別に携わっていた女性たちによって歌い始められたのがその起源とされています。彼らは日々の重労働の中で、リズムに合わせて歌うことで苦労を分かち合い、あるいは励まし合ったことでしょう。当初は作業唄としての性格が強かったと思われますが、そのメロディーや歌詞が親しみやすいものであったためか、次第に酒席などでも親しまれるお座敷唄としても歌われるようになりました。そして、九州の筑豊地方に伝わる有名な「炭坑節」と並び称されるほど、全国的にその存在が知られるようになりました。

地域を越えた伝播

鉱山で働く人々の間で歌われる労働歌には、働く人々が職を求めて移動するのに伴って、各地へ伝わりやすいという特性があります。常磐炭鉱節も例外ではなく、この歌が元となって、栃木県茂木町のマンガン鉱山では「ヤロヤッタ節」という新たな民謡が生まれ、歌い継がれるようになりました。これは、一つの地域の労働歌が他の地域の労働現場にも影響を与え、新たな文化を生み出す興味深い例と言えるでしょう。

他の炭鉱歌との関係性

常磐炭鉱節には、有名な筑豊の「炭坑節」や、かつて足尾銅山で歌われたとされる「足尾石刀節（あしおのいしとうぶし）」といった他の地域の炭鉱や鉱山で歌われた労働歌と共通する歌詞が存在します。しかし、これらの歌の間でどちらがどちらに影響を与えたのか、あるいは共通の源流があるのかといった詳細な関係性は、今日では残念ながら明確になっていません。これは、口承によって伝えられてきた民謡の歴史をたどることの難しさを示す側面でもあります。

現代における展開

時代が下り、炭鉱の時代が終焉を迎える中でも、常磐炭鉱節は様々な形で人々に記憶され、受け継がれています。1970年には、人気コメディグループであるザ・ドリフターズによって、この常磐炭鉱節をコミカルにアレンジした楽曲「冗談炭坑節」が制作され、歌われました。作詞はなかにし礼氏が手掛けており、元の民謡とは異なるユーモラスな歌詞がつけられましたが、これにより多くの人が常磐炭鉱節という名を知るきっかけにもなりました。

常磐炭鉱節は、単なる古い歌ではありません。かつて日本のエネルギー需要を支え、地域の経済と人々の生活を支えていた常磐炭田の歴史、そしてそこで働く人々の力強さや哀愁といった感情が込められた、貴重な文化遺産と言えるでしょう。そのメロディーや歌詞は、今日の私たちに、過ぎ去った時代の営みと、それを歌として昇華させた人々の精神を伝えています。

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