平成くん、さようなら

書籍詳細

『平成くん、さようなら』は、著者古市憲寿による小説で、2018年11月に文藝春秋から刊行されました。本作は、平成という時代を作者が独自に振り返り、その思索を深める内容となっています。187ページに及ぶこの作品は、2019年の第160回芥川龍之介賞にもノミネートされましたが、惜しくも受賞には至りませんでした。

概要

この作品には、時事的なネタや固有名詞が多く取り入れられており、例えばアフリカ系アメリカ人初のルイ・ヴィトンのデザイナーに指名されたヴァージル・アブローの名前が登場します。古市は、平成年代の出来事や著名な人物に着目し、それらを通して自らの考察を展開しています。
また、作者は祖母の死が作品に強く影響していると語っており、彼女の死に対する思索が小説全体に込められています。特に、歩行や食事が困難になった祖母の言葉や、死への願望が物語の重要な要素になっています。このような個人的な体験を通じて、作品はより深いメッセージを提供しています。

2021年には文春文庫に収録され、文庫版では本編の一部が修正され、巻末には50以上の注解が追加されました。これらの注解では、平成の終了後に起こった新型コロナウイルスの世界的な流行や2020年東京オリンピック・パラリンピックの延期などが述べられています。

あらすじ

物語は、安楽死が合法化された現代日本を舞台に進行します。主人公である「平成（ひとなり）くん」は、平成時代を象徴する人物としてメディアに取り上げられ、現代的な生活を送っています。彼は合理的でクールな性格の持ち主であり、性的接触を避ける傾向があります。ある日、「平成くん」は、元号の変わり目と共に安楽死を望んでいることを恋人の「愛」に告げます。

この告白は、愛にとって受け入れがたいものでしたが、日常生活を通じて彼女は生と死の意義について問い直すことになります。愛は、「平成くん」が語る安楽死という選択に自ら向き合い、それが何を意味するのか、今を生きることの意味を再評価する旅に出ることになります。

この作品は、個人の思索や感情、時代の影響を鮮やかに描き出しており、読者に深い印象を残す内容となっています。また、平成から令和へと移行する時代の潮流を背景に、死と生についての考察が投げかけられるため、多角的な視点での解釈が可能です。古市の独特の視点と感受性が光る一冊として、多くの読者に支持されています。

もう一度検索