平成6年渇水

平成6年渇水は、1994年（平成6年）から翌1995年にかけて、主に九州北部から関東地方までの広い範囲で発生した深刻な水不足です。これは「1994年渇水」とも呼ばれています。

渇水の背景と全体像

1994年は、日本各地で春から降水量が少ない傾向が続き、梅雨に入っても雨量が平年の半分以下という異常な気候でした。さらに、7月から8月にかけては記録的な猛暑日が続き、西日本から関東地方の多くの観測地点で過去最高気温を記録するほどの暑さとなりました。

長期間にわたる晴天と高温により、各地の河川流量やダム貯水量が急激に減少。多くの地域で降水量が平年の30〜70パーセント程度にとどまりました。このため、特に九州北部、瀬戸内海沿岸、東海地方を中心とした地域では、生活に不可欠な上水道の供給が困難となり、時間指定による断水や給水時間の制限など、厳しい給水制限措置が講じられました。

この渇水の影響は広範囲に及び、約1660万人の人々の生活に支障が出ました。また、農業分野でも多大な被害が発生し、その額は1409億円に達しました。

地域別の影響詳細

九州北部
福岡市周辺では、4月にはほぼ満水だったダム貯水率が、梅雨期の少雨と梅雨明け後の記録的な猛暑で急激に低下しました。7月に入ると、福岡県と建設省（当時）は渇水対策本部を設置し、節水への協力を呼びかけました。しかし状況は悪化の一途をたどり、筑後川からの取水制限が始まり、多くの自治体で渇水対策本部が設置されました。7月下旬にはダム貯水率が50%を割り込み、太宰府市で夜間断水が開始。その後、福岡市を含む周辺自治体にも断水が拡大しました。
8月後半には状況がさらに悪化し、ダム貯水率が25%以下に。寺内ダムでは貯水率が0%となり、デッドウォーター（取水口より下層の水）の利用を余儀なくされました。秋になっても回復は遅れ、断水は長期化。福岡市では、過去の渇水（昭和53-54年）を上回る295日間にわたって断水が続きましたが、給水時間内は供給が確保されたため、前回ほどの苦情はなかったとされます。
北九州市でも、遠賀川の水源が豊富とみられていましたが、河口堰の水位低下により9月から約1ヶ月間、夜間断水が実施されました。
長崎県では25市町村で給水制限が行われ、特に佐世保市では8月から翌年3月まで213日間、1日の平均断水時間が20時間を超えるという極めて深刻な事態となりました。

四国地方
四国最大のダムである早明浦ダムは、梅雨明け前から貯水量が減少し始め、香川県では早期に渇水対策本部が設置されました。同ダムを主要水源とする高松市では6月末から給水制限が始まり、7月には夜間断水、さらに1日5時間給水という厳しい制限が課されました。7月の台風による一時的な降雨でわずかに貯水量が回復しましたが、その後再び猛暑に見舞われ、早明浦ダムは8月には貯水率0%となり干上がってしまいました。高松市の断水は67日間、給水制限は139日間に及びました。
松山市でも台風による雨では水不足は解消されず、7月下旬から断水が開始され、給水時間は段階的に短縮されました。有名な道後温泉も営業時間短縮を余儀なくされ、工業用水も停止されたことで、操業を停止する工場も出るなど、産業界にも大きな影響が出ました。松山市の断水は124日間続きました。

中国地方
広島県では、多くの河川で観測史上最低の流量を記録し、沼田川、芦田川、太田川などで取水制限が行われました。東野町（現在の東広島市の一部など）では70日間、福山市では290日間もの長期にわたり給水制限・断水が発生しました。県西部では、翌年5月まで取水制限が続く河川もありました。
岡山県では、県内主要河川である吉井川、旭川、高梁川の全てで取水制限が実施され、特に高梁川水系では138日間にわたり制限が続きました。倉敷市でも7月中旬から給水制限が始まり、夜間断水、最終的には1日8時間給水という状況となり、断水は9月末まで続きました。水島地区の工業地帯にある製鉄所や化学工場は減産を強いられ、中には山口県や宮崎県から海上輸送で水を確保するという異例の措置を取る工場もありました。

近畿地方
兵庫県では、揖保川上流にある引原ダムの貯水量が急激に減少し、わずか1ヶ月足らずで8%にまで落ち込みました。このダムを水源とする姫路市では、8月下旬から71日間にわたって夜間断水が実施されました。ダム貯水率は一時1%まで低下し、デッドウォーターの利用も行われました。
近畿地方の水源の一つである琵琶湖でも、6月頃から水位が低下し続け、9月には観測史上最低となる水位を記録しました。これに伴い、琵琶湖を水源とする京都市や大阪市では、減圧による給水制限が約1ヶ月半にわたり実施されました。

東海地方
愛知県では、8月後半に13の市町で夜間断水が実施され、多くの水を使う工場が減産を余儀なくされました。豊川市も断水が避けられない状況に追い込まれましたが、9月中旬に天竜川水系佐久間ダムから豊川への緊急分水が実施されたことで、断水を回避することができました。

関東地方
関東地方の主要水源である利根川上流部では、梅雨明け後の水不足が懸念されました。7月には建設局や東京都が渇水対策本部を設置し、利根川水系での取水制限が約2ヶ月間にわたり実施されました。東京都でも最大15%の給水制限が行われましたが、他の深刻な地域とは異なり、関東地方で断水に至ったのはごく一部の地域にとどまりました。

平成6年渇水は、全国的な少雨と記録的な猛暑が複合的に作用した結果、広範囲で市民生活や産業に多大な影響を与えた大規模な自然災害でした。この経験は、日本の水資源の有限性と、渇水対策の重要性を再認識させる出来事となりました。

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