平木信二

平木信二：苦難を乗り越えた実業家と、未来へ繋いだコレクション

1910年10月5日、現在の京都府長岡京市に生まれた平木信二は、日本の実業家として、そして浮世絵コレクターとして知られる人物です。リッカーミシン株式会社の社長として、会社を株式公開に導いた彼の生涯は、困難を克服し、大きな成功を収めた物語として語られています。

高等小学校卒業後、平木信二は故郷を離れ、日本紡績株式会社（後のユニチカ）に入社。関西大学商学部夜間部を卒業後、さらに京都帝国大学経済学部へと進学しました。学業と並行して、彼は計理士として独立開業。1934年の卒業後、自身の計理士事務所を開設します。日中戦争下の軍需景気と複雑化する税制は、計理士の需要を急激に高め、29歳の若さで平木は経済的な成功を収め、家族を養えるだけの財産を築きました。この成功の礎には、戦争という時代状況と彼の高い専門性が重なりあったことが見て取れます。

1929年、平木信二はわずか8ヶ月という短い間に祖父母と母親を亡くすという悲劇に見舞われました。この出来事は、彼の心に深く刻まれたに違いありません。当時の状況から、家族は墓地を確保するにも苦労したと伝えられています。この経験は、後の彼の活動に影響を与えたと考えられます。

1939年、平木信二は日本殖産工業を設立し、1941年には社長に就任しました。その後、社名を理化学工業、そして1949年にはリッカーミシンへと変更。彼は、一代でリッカーミシンを株式公開される企業へと成長させました。その手腕は、単なる経営能力を超え、時代を見据えた戦略眼と決断力があったことを示しています。

経営者としての成功に加え、平木信二は実業団スポーツにも力を注ぎました。陸上部や野球部などを設立し、有力チームへと育成しました。陸上部には、のちに名監督となる吉岡隆徳氏を監督に迎えたことは、彼のスポーツへの熱意と深い見識を表しています。

晩年は、大の酒好きでヘビースモーカーであったことが祟り、心肺機能の悪化により酸素吸入装置が必要となるほどでした。愛車としてリンカーン・コンチネンタルを選んだのも、車体が大きいため酸素吸入装置を搭載しやすかったからという理由によるものです。このエピソードは、彼の豪快な性格の一面を垣間見せています。

しかし平木信二の活動は、実業のみに留まりません。彼は熱心な浮世絵コレクターとしても知られていました。戦前の日本においては、「松方コレクション」、「斎藤コレクション」、「三原コレクション」が三大コレクションとして有名でしたが、斎藤コレクションと三原コレクションは海外流出の危機に瀕していました。平木信二はこれらのコレクションを収集、保管し、後に平木浮世絵財団を設立することで、貴重な浮世絵作品群を未来へと繋ぐ役割を果たしました。

平木信二の生涯は、困難を乗り越え、事業で成功を収め、さらに日本の文化遺産を保護した実業家としての物語です。彼の功績は、企業経営のみならず、文化保護という面においても、現代社会に多大な影響を与え続けています。彼の残した足跡は、現代の私たちに、挑戦と責任、そして未来への継承という大切なメッセージを伝えています。

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