平民苗字必称義務令

平民苗字必称義務令とは

平民苗字必称義務令は、明治8年（1875年）に太政官布告第22号として公布された日本の法令です。この法令によって、すべての国民が苗字を名乗ることが義務付けられました。

江戸時代以前の状況

江戸時代以前、苗字は公家や武士、豪商などの支配階級のみが使用するものでした。農民は苗字を持つことが許されず、自らの家系や氏・姓を忘れさせられていた歴史があります。

平民苗字許容令（1870年）

明治政府は1870年（明治3年）に平民にも苗字を名乗ることを許可する「平民苗字許容令」を公布しました。これは、封建制度の不合理を排除し、国民を戸籍で管理するためのものでした。しかし、この時点では苗字を名乗ることが義務ではなかったため、多くの人々は旧来の慣習に従い、苗字を名乗ることをためらいました。

平民苗字必称令（1875年）

平民苗字許容令後も、苗字を持たない者が多かったため、徴兵などの事務に支障をきたすようになりました。そのため、明治政府は1875年（明治8年）に「平民苗字必称令」を公布し、全国民に苗字を持つことを義務付けました。これにより、日本国民は全員が苗字を持つことになり、いわゆる「国民皆姓」となりました。

苗字創設の模様

この法令により、苗字のない人々は自由に苗字を創設することができました。旧士族は武士時代の苗字に戻す者が多く、それ以外の農民や町人は、祖先の地名や屋号、職業などを苗字にすることが一般的でした。

字が書けない人や、先祖のことがわからない人は、村の学識者（僧侶、神主、塾の師匠など）に苗字をつけてもらうこともありました。中には、役所の戸籍係に苗字をつけてもらった人もいます。その際、戸籍係が「適当に」と頼まれて「適藤」という苗字にしたり、「手柄を立てた」というので「手柄」という苗字になったり、前の人と同じ苗字という意味で「左に同じ」といったら「左同」になったり、といったエピソードもあります。

また、鰻取りの名人だから「鰻」にする人、夫婦喧嘩をやめるよう「円満」にする人、有名武将と同じ苗字にする人など、様々な理由で苗字がつけられました。

苗字の誤登録

苗字は口頭で申請されましたが、当時の役人は読み書きに不慣れな者もいたため、漢字を間違えて登録するケースもありました。例えば、「サイトウ」という苗字は、本来は「斎藤」が由来でしたが、役人の書き間違いで「斉藤」「齋藤」「齊藤」といった種類が生まれました。

「佐藤」と「鈴木」が多い理由

日本人に「佐藤」と「鈴木」という苗字が多いのは、政府が苗字の例として提示したためであるという説があります。当時、苗字を考えるのが難しい人は、政府が例として出した苗字を選んだと考えられます。

まとめ

平民苗字必称義務令は、日本の歴史において重要な転換点となりました。この法令により、全国民が苗字を持つようになり、戸籍制度が確立され、国民の把握管理が進みました。また、この法令は、今日の日本人の苗字の多様性を生み出すきっかけにもなりました。江戸時代には3万種程度だった苗字が、現在では12万種を超えるようになったのは、この法令によって多くの苗字が新たに創出されたことによるものです。

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