平沢常富

平沢常富：武士、戯作者、そして狂歌師

平沢常富は、江戸時代中期から後期にかけて活躍した、秋田県出身の文化人です。久保田藩士として江戸留守居を務め、藩の外交を担う重要な役割を担っていました。しかし、彼の名は、武士としての功績だけでなく、戯作者「朋誠堂喜三二」、狂歌師「手柄岡持」としての文筆活動でも広く知られています。

多彩な人生：武士の日常と文壇での活躍

常富は、西村久義の子として生まれ、14歳で久保田藩士・平沢家の養子となりました。養家である平沢家は、愛洲陰流剣術の祖を先祖に持つ由緒ある家系でした。天明の頃には、藩の江戸留守居役筆頭を務め、120石の高禄を得ていました。江戸留守居役は、江戸藩邸の運営や幕府・他藩との交渉を行う重要な役職であり、常富は外交官としての役割も担っていたと考えられます。

一方、私生活では「宝暦の色男」と自称するほど、吉原に通うなど華やかな生活を送っていました。吉原は単なる遊郭ではなく、社交の場としての側面も持っていたため、常富の吉原通いは、人脈を広げるための活動でもあったと考えられます。このような多様な経験が、彼の作品に反映されていると言えるでしょう。

文筆家としての才能：黄表紙と狂歌

常富は、若い頃から文筆活動に携わり、数多くの黄表紙を著しました。黄表紙は、庶民の間で人気を博した滑稽本の一種で、常富は「朋誠堂喜三二」の筆名で多くのヒット作を生み出しました。彼の作品は、当時の人々の生活や世相をユーモラスに描いたもので、庶民の間に広く読まれました。

また、天明期に流行した「天明狂歌」にも積極的に参加し、「手柄岡持」や「楽貧王」などの名で多くの狂歌作品を残しました。狂歌は、世相や時事問題を風刺的に描いたユーモラスな歌であり、常富は、この分野でも高い才能を発揮しました。特に、松平定信の寛政の改革を風刺した黄表紙『文武二道万石通』は、彼の代表作の一つとして知られています。この作品は、藩主からの叱責を受けるほどのインパクトを与え、その後、常富は黄表紙の執筆から狂歌に活動をシフトしていったようです。

後世への影響：作品と研究

常富の作品は、現在でも様々な形で後世に伝えられています。彼の代表作である『親敵討腹鞁』、『案内手本通人蔵』、『見徳一炊夢』、『文武二道万石通』などは、古典籍として出版され、現代でも研究対象となっています。また、近年のテレビドラマにおいても、常富の生涯が取り上げられ、広く一般の人々の関心を集めています。

これらの作品を通して、私たちは江戸時代の庶民文化や社会風俗を垣間見ることができるだけでなく、常富という人物のユーモラスな才能と、時代の変化の中で揺れ動いた彼の複雑な人生についても知ることができます。武士、戯作者、狂歌師という多様な顔を持つ平沢常富は、江戸時代の文化史において、重要な役割を果たした人物と言えるでしょう。

代表作一覧

『親敵討腹鞁』（2冊、黄表紙、安永6年） 恋川春町画
『案内手本通人蔵』（2巻、安永8年）
『見徳一炊夢』（3巻、安永10年）
『文武二道万石通』（3冊、天明8年） 喜多川行麿画
『後（のち）はむかし物語』（随筆、享和3年）

刊本

常富の作品は、複数の古典文学全集や選集に収録されており、現代でも容易に閲覧することができます。これらを通じて、彼の作品を直接に触れ、江戸時代の文化に触れることが可能です。

関連作品

テレビドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』（2025年、NHK大河ドラマ）

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