幼年ブック

2つの『幼年ブック』：戦後日本の児童文化を彩った雑誌

戦後日本の出版界において、『幼年ブック』というタイトルの雑誌が2種類存在しました。どちらも幼少年を対象とした雑誌でしたが、出版社、内容、そして時代背景は大きく異なっていました。本稿では、それぞれの『幼年ブック』について詳しく解説します。

国民図書刊行会版『幼年ブック』(1947年1月号 - 1949年8月号)

1947年1月号に創刊された国民図書刊行会版『幼年ブック』は、戦後まもない日本の社会情勢を色濃く反映した雑誌でした。占領下という状況下、平和主義や民主主義を重んじた内容が特徴です。

文学面では、錚々たるメンバーが参加しました。村岡花子、村山知義、草野心平といった著名な作家に加え、坪田譲治、海野十三、サトウハチローといった、子どもたちに愛される作品を数多く手がけた作家も名を連ねています。

美術面でも、茂田井茂、武井武雄といった、日本の児童書イラストレーション史に名を残す巨匠たちが参加し、雑誌の見栄えを格段に向上させていました。質の高い文学作品と美しいイラストレーションが調和した、まさに戦後日本の児童文化の象徴ともいえる雑誌だったと言えるでしょう。

しかし、1949年10月、同じ国民図書刊行会から競合誌『チャイルドブック』が創刊されたことで、『幼年ブック』は休刊を余儀なくされました。多くの執筆者や協力者たちは『チャイルドブック』に移籍し、新たな雑誌作りに参加していきました。

集英社版『幼年ブック』(1953年9月号 - 1957年12月号)

国民図書刊行会版から数年後、1953年9月号に集英社から創刊された『幼年ブック』は、前者とは全く異なる性格を持っていました。占領軍による検閲が終わり、日本の社会が大きく変化していく中で生まれたこの雑誌は、漫画を大きく取り上げた点が特徴です。

馬場のぼる、宮坂栄一、益子かつみ、鈴木光明といった、当時人気を博していた漫画家たちが多数参加。彼らの作品によって、雑誌は子どもたちの間で爆発的な人気を獲得しました。

漫画だけでなく、文学作品にも力を入れています。岡本良雄や山川惣治といった作家が作品を提供し、漫画と文学のバランスのとれた内容になっていました。また、アニメーション映画や空想科学イラストレーションの分野からも、才能ある人材が参加し、雑誌の多様な魅力を創り出していました。

この集英社版『幼年ブック』は、1958年に『日の丸』と改題され、歴史に幕を閉じました。

まとめ

このように、同じタイトルながら全く異なる性格を持つ2つの『幼年ブック』は、戦後日本の児童文化の変遷を象徴する存在でした。国民図書刊行会版は、戦後復興期における平和主義的な理想を反映した雑誌であり、集英社版は、高度経済成長期へと向かう社会における漫画文化の隆盛を示す雑誌でした。それぞれの雑誌が掲載した作品や、関わった作家・漫画家たちの功績は、日本の児童文学・漫画史において重要な位置を占めています。両誌の発行期間は短かったものの、日本の児童文化に多大な影響を与えたことは間違いありません。

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