幽霊座

幽霊座

概要

『幽霊座』は、横溝正史による『金田一耕助シリーズ』の中編推理小説である。1952年に「面白倶楽部」に連載された本作は、作者が唯一、歌舞伎役者をテーマにした作品となっており、歌舞伎の知識に自信を持たなかったのか、全集には収められていない。著者の独特の視点から描かれた因襲や親子の愛憎劇が展開されており、興味深い作品だ。なお、本作の舞台設定は1936年に遡り、金田一の活躍が期待される。

あらすじ

物語は1936年、雷門近くの古い劇場「稲妻座」から始まる。この場で、若手歌舞伎役者の佐野川鶴之助は、同じく人気を博する水木京三郎との間で熾烈な競争を繰り広げていた。しかし、千秋楽の狂言『鯉つかみ』の舞台で鶴之助は突然失踪してしまう。舞台の水船に飛び込み、予定通り舞台に現れるはずだった彼が、残念ながら行方不明になってしまったのだ。金田一耕助は、この失踪事件を目の当たりにし、さらに一か月ほど前に依頼を受けた女性、篠原アキとの関連を疑い、慎重に捜査を進める。

時は流れ、1952年、稲妻座では再び『鯉つかみ』の公演が決定した。鶴之助の子供である雷蔵が、16年前の父と同じ役を演じることになったが、初日、雷蔵が倒れてしまう。同じく、稲妻座の弟子・紫虹もまた、忙しない状況の中、舞台で倒れ、結局毒殺されてしまう。彼の死因は、ニコチンを塗った針によるものであり、舞台上での悪夢が続くのだった。

この複雑に絡み合った事件を解明しようとする金田一は、歌舞伎の架け橋ともいえる人間関係を紐解きながら、失踪事件の背後に潜む因果を掴もうと奮闘する。作品中で描かれる背景は、横溝が愛する草双紙の趣味あふれるものとなっており、登場人物たちの複雑な関係が浮き彫りになる。

主な登場人物

• - 金田一耕助：私立探偵、今回の事件の真相を追う
• - 佐野川鶴之助：失踪した歌舞伎役者、かつてのトップスター
• - 佐野川おりん：鶴之助の姉、失踪後、稲妻座を支える
• - 佐野川紫虹：鶴之助の弟、最後の舞台で悲劇に遭う
• - 佐野川雷蔵：鶴之助の遺児、千秋楽での主演を務める
• - 水木京三郎：鶴之助のライバル、陰謀の中心に位置する
• - 篠原アキ：鶴之助と関連する女性
• - 等々力大志：警視庁警部、金田一の協力者

『幽霊座』は、事件を追う金田一耕助の活躍を通じて、歌舞伎の世界とその背後にある人間模様が描かれている。物語の進行と共に、過去の因縁が新たな事件として蘇り、読者を緊張させる展開が続く。因果関係が浮かび上がるにつれて、主人公たちの心の葛藤も明らかになっていく。

この作品は、単なる推理小説にとどまらず、歌舞伎という特異な背景が加わることで、より深みのある物語を展開させている。横溝正史の緻密な描写による人間ドラマとサスペンスが交錯し、読者を引き込むこと間違いなしの一作である。

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