広島平和コンサート

広島平和コンサートは、1985年8月6日と7日に広島郵便貯金ホールで開催された、音楽を通して平和を呼びかけるコンサートです。社団法人広島青年会議所が主催し、世界各地から著名な音楽家が集まりました。

概要

このコンサートは、広島被爆40年目という節目の年に、音楽の力で平和への願いを世界に発信することを目的として企画されました。指揮者には、長年核兵器廃絶運動に関わってきたレナード・バーンスタインと、彼の弟子であり広島出身の大植英次が名を連ねました。また、当時13歳という若さで才能を発揮していたヴァイオリニストの五嶋みどり、ソプラノ歌手のバーバラ・ヘンドリックス、語り手のマイケル・ウェーガーなど、国際的に活躍する音楽家たちが参加しました。

演奏は、ヨーロピアン・コミュニティ・ユース・オーケストラ（ECYO）が担当し、合唱はウィーン・ジュネス・クワイアー、京都エコー、大阪少年少女合唱団が務めました。この豪華な顔ぶれは、平和へのメッセージを力強く表現しました。

コンサートは、国際青年年事業推進会議、広島市、国際連合大学など、多くの団体からの後援を受けました。また、朝日放送、三原テレビ放送（株）などのメディアも協力し、コンサートの模様は広く伝えられました。

プログラム

コンサートでは、以下のプログラムが演奏されました。

ベートーヴェン: 序曲「レオノーレ」第3番作品72（指揮：レナード・バーンスタイン）
糀場富美子: 広島レクイエム（指揮：大植英次）
モーツァルト: ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調「トルコ風」K.219（指揮：大植英次、ヴァイオリン：五嶋みどり）
バーンスタイン: 交響曲第3番「カディッシュ」（指揮：レナード・バーンスタイン、ソプラノ：バーバラ・ヘンドリックス、語り：マイケル・ウェーガー、合唱：ウィーン・ジュネス・クワイヤー、京都エコー、大阪少年少女合唱団）

これらの楽曲は、平和への祈り、希望、そして喪失といった、多面的な感情を表現しました。特に、広島出身の作曲家である糀場富美子の「広島レクイエム」は、広島の歴史と平和への願いを深く結びつけた作品として、聴衆の心に強く響きました。

開催の経緯

コンサートの発案者は、音楽マネージメント事務所ナサ・アーティスツ・ビューローを経営していた佐野光徳でした。佐野は、バーンスタインの熱烈なファンであり、核兵器廃絶運動に強く共感していました。広島被爆40年目を迎えるにあたり、バーンスタインを指揮者とした平和コンサートの企画を立案し、バーンスタインの広報担当者に提案しました。

1985年夏、バーンスタインはECYOのツアーを予定していたため、このツアーに平和コンサートを組み込み、「広島平和コンサート」と名付けたチャリティ公演が実現しました。佐野は英語を話せなかったため、バーンスタインのマネジメント会社アンバーソンのスタッフ、橋本邦彦がコンサート運営に加わり、通訳や宿泊施設の調査などを行いました。

この企画は「平和の旅 (Journey for peace)」と題された大規模なツアーとなり、アテネ、広島、ブダペスト、ウィーンを巡りました。当初は武満徹や細川俊夫の作品演奏も検討されましたが、最終的には大植英次の推薦により、糀場富美子の作品が選ばれました。また、大植はモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番も指揮することになり、ソリストには佐野が五嶋みどりを推薦しました。

広島でのコンサートは、広島市の協力を得て、広島青年会議所がスポンサーとなりました。コンサート前日には、広島市長がバーンスタインを歓迎するレセプションを開催しました。コンサートの模様は、NHK教育テレビで全国放送され、多くの人々に感動を与えました。

プログラム冊子

プログラム冊子は、画家・岡本太郎によるポスター原画が表紙に使われ、「Hiroshima Peace Concert 1985」と題された全68ページの豪華なものでした。冊子には、バーンスタイン、厚生大臣、広島市長、広島青年会議所理事長のメッセージが掲載されました。また、出演者のプロフィール、オーケストラと合唱団のメンバー表、作曲家・糀場富美子のプロフィール、曲目ノート、ポスター原画制作者の紹介などが含まれています。

さらに、1985年の欧州音楽年に際して行われたECYOのツアーに対する、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツなど、ヨーロッパ各国の首脳からのメッセージも掲載されました。世界各国の芸術家や政治家からの「平和へのメッセージ」や、全滅した広島一中1年生の父母の手記集からの抜粋も掲載され、コンサートの意義を深く掘り下げています。このプログラム冊子は、EUYO（ECYOの後身）のウェブサイトでPDFとして公開されています。

スタッフ

コンサートを支えたスタッフは以下の通りです。

ナサ・アーティスツ・ビューロー: 佐野光徳、山下康正、中根俊士、梶川悦子、安田麻里、福田桂子、吉葉尋子
クロスワード: 垂水晋三、中園敏也、垂水広志、垂水景、田中里枝、斎藤親
(株)ショット: 井上健、藤山朝子
ジャパン・センター: 道井孝子
アンバーソン・プロダクション: ハリー・クラウト、橋本邦彦
テレシアター・ウィーン: ロバート・ユングブルト、ハインリッヒ・マイヤー、松田暁子
カーソン・オフィス: マーガレット・カーソン
ヨーロピアン・コミュニティ・ユース・オーケストラ: ハンス・ランデスマン、ジョイ・ブライヤー
朝日放送: 林伸光
アウル工房: 宇野幹雄
新広告（株）: 吉広朗

これらのスタッフの尽力により、広島平和コンサートは大成功を収めました。

参考文献

「Hiroshima Peace Concert 1985」プログラム. 広島平和コンサート実行準備委員会, 1985
* 吉原真里『親愛なるレニー：レナード・バーンスタインと戦後日本の物語』アルテスパブリッシング, 2022.10

このコンサートは、音楽の力を通して平和を願う人々の心を繋ぎ、未来への希望を育む、重要なイベントとして記憶されています。

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