広島県農工銀行

広島県農工銀行：地方金融の礎、そして原爆の記憶

広島県農工銀行は、1898年（明治31年）に広島市で設立された特殊銀行であり、現在のみずほ銀行の前身の一つです。その設立は、農工業の振興を目的とした国の政策と深く結びついていました。

設立の背景と初期の活動

1896年（明治28年）に「農工銀行法」が制定されたことを受け、全国各地に農工銀行が設立されました。広島県農工銀行もその一つで、1898年6月15日に設立が認可され、同年9月15日に広島市尾道町で開業しました。その役割は、農工業の発展に必要な資金を長期・低利で融資することであり、当時の地域経済を支える重要な存在でした。

設立にあたっては、広島県庁が主導し、地元の有力な商工業者や大地主が出資者となりました。初代頭取には、石井英太郎が就任し、行政との連携も密接でした。また、日本勧業銀行の代理店としての役割も担い、事実上の広島支店として機能しました。

経営の拡大と発展

1906年（明治39年）には、大手町に煉瓦造りの本店を新築・移転し、1931年（昭和6年）には、上流町（現在の中区胡町）に鉄筋コンクリート造の新しい本店を建設しました。これらの本店移転は、銀行の成長と地域経済への貢献を示すものでした。また、1911年には独自の債券を発行し、1923年から1924年にかけて福山と三次に支店を開設するなど、経営基盤を拡大しました。

日本勧業銀行との合併、そして終焉

全国的に農工銀行の経営が困難になる中、1921年（大正10年）に勧農合併法が制定され、日本勧業銀行との統合が進められました。広島県農工銀行もその流れに乗り、1937年（昭和12年）1月に合併契約を締結、同年3月25日に日本勧業銀行に引き継がれました。合併後、旧本店は日本勧業銀行の広島支店となりました。

原爆の惨禍と記憶

1945年8月6日、広島に原爆が投下されました。当時、日本勧業銀行広島支店となっていた旧本店（上流町）は、爆心地から940mの距離にあり、建物は外郭を維持したものの内部は全焼、多くの犠牲者を出しました。しかし、被爆当日には広島市の受託銀行として援護資金を融資するなど、復興に向けて尽力しました。

一方、大手町にあった旧本店は、爆心地からわずか380mの距離にあり、全壊しました。跡地には、広島県農業会原爆物故者慰霊碑が建立され、犠牲者を追悼しています。

現在

福山・三次両支店は勧銀の出張所から支店に昇格しましたが、三次支店は廃止。しかし、芸備銀行に買い取られ、広島銀行三次支店として2005年まで使用されました。現在は和菓子店となっています。

広島県農工銀行は、その短い歴史の中で、地域経済の発展に貢献し、原爆の惨禍を経験しました。その足跡は、現在のみずほ銀行に受け継がれ、広島の地に深く刻まれています。

年表

1896年（明治28年） - 「農工銀行法」制定。
1898年（明治31年）
6月15日 - 広島県農工銀行の設立（設立認可）。
9月15日 - 広島市尾道町に本店をおき開業。
1906年（明治39年）9月 - 大手町2丁目の新本店が竣工・移転。
1911年（明治44年）6月 - 第一回広島県農工銀行債券300,000円を発行。
1923年（大正12年）1月 - 福山支店を設置。
1924年（大正13年）1月 - 三次支店を設置。
1931年（昭和6年）4月 - 上流町の新本店が竣工・移転。
1937年（昭和12年）
1月20日 - 日本勧業銀行との合併契約が締結。
3月25日 - 日本勧業銀行への引継。

歴代頭取

初代：石井英太郎（1898年（明治31年）5月 - ）
2代：八田謹二郎（1910年（明治43年）1月 - ）
3代：石井英太郎（再任 / 1914年（大正3年）1月 - ）
4代：沢原為綱（1914年12月 - ）
5代：田部香蔵（1919年（大正8年）1月 -　）
6代：高木幹吾（1923年（大正12年）10月 - ）
7代：佐々木虎太郎（1926年（大正15年）4月 - ）
8代：島津需吉（1934年（昭和9年）1月 - 1937年（昭和12年）3月）

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