庵地焼

庵地焼（あんちやき）は、新潟県阿賀野市保田地区、通称「庵地」で焼かれる陶器です。その特徴は、何と言っても「庵地の黒」と称される、独特の深みのある黒色釉薬にあります。

庵地焼のルーツは、江戸時代にまで遡ります。当時、この地では「保田焼」と呼ばれる焼き物が盛んに作られていました（現在の「安田焼」とは異なります）。昭和初期には、村山、旗野、田村、井上といった窯元が点在していましたが、第二次世界大戦を前後して、旗野窯を除くほとんどの窯が姿を消してしまいました。

唯一残った旗野窯は、1878年（明治11年）に村松焼（現在の五泉市）で修行を積んだ旗野直太郎によって開かれました。当初は、甕、鉢、皿、碗、徳利、片口といった日常食器のほか、湯たんぽ、火鉢、植木鉢などの日用雑器を製造していました。

その後、旗野嘉山（嘉一）が窯を継承し、さらに三代目の旗野義山（義夫）が、長年の研鑽と努力によって民芸窯としての地位を確立しました。特に義山は、釉薬の研究に熱心に取り組み、「庵地の黒」と呼ばれる独特の黒色釉薬を生み出しました。その作品は、力強くも温かみがあり、多くの人々を魅了しました。義山没後は、実子の三姉妹がその遺志を継ぎ、窯を守り続けています。

昭和初期には、宮之原謙や佐々木象堂といった著名な文化人も庵地を訪れ、滞在中に数々の秀作を生み出しました。これにより、庵地焼の名は全国に知れ渡るようになりました。近年では、2005年に作家の津村節子が旗野窯をモデルにした小説『土恋』を発表し、大きな話題を呼びました。この小説を通して、庵地焼の歴史や魅力が改めて多くの人に認識されることとなりました。

現在も庵地焼は、その伝統を守りながら、新たな表現を追求し続けています。素朴でありながらも力強い、その独特の作風は、多くの人々を魅了し続けています。

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