康弁

康弁（こうべん）について

康弁は、鎌倉時代に活躍した著名な仏師で、運慶の三男として知られています。生年や没年ははっきりしていませんが、彼の作品からはその才能や技術が伺えます。康弁の伝記は詳細には残っていない部分が多く、彼の人生には多くの謎が存在します。

康弁は父である運慶に従いながら、様々な仏像の制作に関与しました。特に知られているのは、東寺南大門にあった金剛力士像の制作や、興福寺北円堂での数々の仏像の分担制作です。しかし、彼の名が付く作品の中でも特筆すべきは、興福寺所蔵の「天燈鬼・龍燈鬼立像」です。

天燈鬼・龍燈鬼立像の詳細

天燈鬼・龍燈鬼立像は康弁の代表作として広く認知されており、国宝に指定されています。この一対の木彫像は興福寺の西金堂に安置されていましたが、現在は同寺の国宝館に展示されています。

これらの像は、建保3年（1215年）に康弁によって制作されたことが、龍燈鬼の胎内に納入された紙片から判明しています。天燈鬼の像には同様の納入品は見つかっていないものの、両像は互いに阿吽の形態を取り、その完成度からも康弁自身の作品と考えられています。

この像たちは、本来四天王に踏みつけられる悪や仏敵の象徴である邪鬼を独立した造形として表現したものです。従来の仏教彫刻に見られない、滑稽さを交えたリアルな描写が特徴であり、康弁の優れた技術と表現力が光ります。

各像の特徴

- 天燈鬼

像の高さは約78cmで、左肩に灯篭を担ぎ、姿勢は上体を右に傾け、右腕を伸ばしています。そのバランスの良さが印象的です。眉には銅板が使用され、巧妙な工芸的工夫が見て取れます。また、口を大きく開けている点から、阿形（あぎょう）を象徴しています。

- 龍燈鬼

この像も高さ約78cmで、両足を広げて直立しています。竜を体に絡ませながら、頭上には灯篭を乗せています。上目遣いの目つきや大きな団子鼻が特徴的で、顔立ちには独特のユーモアが宿ります。口は一文字に閉じられており、吽形（うんぎょう）を表現しています。

また、目の部分は「玉眼」と呼ばれ、後頭部をくり抜き内部から水晶やガラスをはめ込む技法が用いられている点でも興味深いです。

康弁の影響と評価

康弁の作品は、単に仏教彫刻の領域に留まらず、そのユニークな表現力や技術は、後の世代の仏師たちに多大な影響を与えました。康弁の取り組みは、従来の厳格でフォーマルな仏教彫刻に新しい風を吹き込み、多様な表現が可能であることを示しました。

彼の作品を鑑賞することで、当時の文化や信仰生活におけるアーティストの役割についても考察することができ、康弁の存在は、単なる彫刻家にとどまらず、日本の美術史に独自の足跡を刻む重要な人物であることが分かります。

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