廃市

小説『廃市』と映画化のプロセス

概要

福永武彦の短編小説『廃市』は、1959年に発表され、その翌年に新潮社から単行本として刊行された。この作品は、1983年に大林宣彦監督によって映画化されることとなり、長い間の念願が実現したものである。本作は、福永の生まれ故郷である九州を背景にした架空の物語となっており、様々な登場人物を通じて「廃墟」というテーマが描かれている。小説は『婦人之友』に連載され、広がりのあるストーリー展開が魅力である。

あらすじ

物語の主人公である「僕」は、10年前の夏に過ごした田舎町での出来事を回想する。一夏の間、友人の家に滞在していた「僕」は、訪れた町が火事で焼け落ちたという新聞記事を目にし、当時の記憶が蘇る。家の中にはおばあさんや若い夫婦、そして安子という女性がいたが、彼女の姉である郁代には一度も顔を合わせることがなかった。

ある日、安子に誘われて母の墓参りに出かけた「僕」は、寺で郁代と安子が対座する場面を目撃する。二人から、安子の姉が直之という男と不倫関係にあり、自ら寺に引き籠もっていることを知る。悪化する人間関係の中で、直之との出会いが「僕」の心の葛藤を引き起こし、物語は次第に複雑さを増していく。直之は自分が愛する安子に気持ちを寄せつつも、その形を悩み続け、結局は自ら命を絶つ結末へと向かう。

執筆背景

福永はこの作品を、抒情的で分かりやすい文学作品として設計していたが、自身の出身地には長らく帰っておらず、実際の場面は特定の場所をモデルにすることは少なかった。福永は、地方の文化や町の様子を描く際に、実際の土地とは別のイメージを創造したとも考えられている。このような視点を持っていたからこそ、廃市というタイトルが持つ陰影や象徴性が際立ったのだ。

映画化

映画『廃市』は、福永の作品を初めて映画化したもので、監督の大林宣彦は、何年も前からこの作品を映像化したいと考えていた。映画の中には文学的な要素が多く含まれており、しばしば言語の背後にある意味を掘り下げることが求められる。大林は、演出にあたり16mmフィルムを使用することで、原作が持つ私小説的な繊細さを引き出すことに努めた。

映画には、小林聡美や峰岸徹をはじめとする多彩なキャストが出演し、特に小林は暗い側面を持つキャラクターを演じた。当初、映画化のタイトルは「さびしんぼう」という考えがあったが、福永作品への敬意を表して『廃市』に決定したという。

作品の評価

映画が公開されると、初めは地方住民から題名への反発があったが、作品を通じて町に愛着を持ち始めた人々も現れた。最終的には「廃市」という言葉を誇りに思うようになり、地域のアイデンティティが変化していく様子が描かれた。大林の映画制作は、後の地域映画の流れを大きく影響したとも考えられている。

結論

『廃市』は、福永武彦の文学作品とその映画化がどのように地域社会や文化に影響を与えたのかを示す重要な作品である。物語の深層に潜む人間存在の複雑さや、町という大きなテーマの中にある個々の思いが、本作の魅力を形成している。

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