廣井良典

廣井 良典（ひろい よしのり）氏は、1961年4月27日生まれの日本の研究者です。京都大学名誉教授の称号を持ち、公共政策と科学哲学を主要な専門分野としています。

廣井氏の研究活動は極めて多岐にわたり、社会保障、医療、環境、そして都市や地域といった具体的な政策課題に関する分析から、ケア、死生観、時間、コミュニティといった根源的な哲学的考察に至るまで、幅広い領域を横断しています。特に注目すべきは、持続可能な社会のあり方を模索する中で、環境、福祉、経済を一体として捉え直すことを目指し、「定常型社会」、すなわち「持続可能な福祉社会」という概念を提唱している点です。これは、際限のない経済成長を前提とする現代社会の限界を踏まえ、地球環境や人間らしい生活を維持するための新しい社会システムを提示するものです。

その学問的背景として、廣井氏は岡山県で育ち、灘高等学校を経て東京大学へ進学。東京大学教養学部で科学史・科学哲学を専攻し卒業後、同大学大学院総合文化研究科で相関社会科学の修士課程を修了しました。キャリアの初期には厚生省で10年間勤務し、この間にマサチューセッツ工科大学（MIT）大学院に留学し、政治学の修士号を取得しています。その後、研究職へ転じ、千葉大学法経学部で助教授、教授を務め、東京大学先端科学技術研究センターの客員研究員・教授も経験しました。2016年からは京都大学に移り、こころの未来研究センター教授を経て、人と社会の未来研究院教授を務め、2025年より京都大学名誉教授となります。また、MITには客員研究員としても再訪しています。

廣井氏の著作は、その幅広い研究領域を反映しており、多くの重要な成果を残しています。特に、コミュニティのあり方を問い直した著作『コミュニティを問いなおす』（ちくま新書、2009年）は第9回大佛次郎論壇賞を、日本の社会保障制度を詳細に分析した『日本の社会保障』（岩波新書、1999年）は第40回エコノミスト賞を受賞しています。また、人口減少社会の未来像を描いた『人口減少社会のデザイン』（東洋経済新報社、2019年）は第10回不動産協会賞を受賞するなど、複数の受賞歴があります。その他にも、『ケアを問いなおす』（ちくま新書、1997年）、『定常型社会』（岩波新書、2001年）、『死生観を問いなおす』（ちくま新書、2001年）、『ポスト資本主義』（岩波新書、2015年）、『無と意識の人類史』（東洋経済新報社、2021年）、『科学と資本主義の未来』（東洋経済新報社、2023年）など、現代社会が直面する根源的な問いに取り組む著作が多数あります。

さらに、廣井氏は政府や自治体の各種委員会、財団、メディアなど、多岐にわたる分野で委員やアドバイザーを歴任し、研究成果を社会の政策形成や議論に反映させる活動にも積極的に関わっています。例えば、内閣府の「幸福度に関する研究会」委員や、環境省、国土交通省、経済産業省などの各種審議会や研究会委員を務め、現代日本の重要課題に対して専門的な見地からの提言を行ってきました。

廣井良典氏の探求は、公共政策の実務経験と哲学的な思索とを結びつけ、経済成長や技術進歩だけでは解決できない現代社会の複雑な問題に対し、ケア、コミュニティ、自然環境との関係性、そして人間の根源的なあり方といった視点から、新しい解決の糸口と持続可能な未来への構想を示唆しています。その活動は、学術界に留まらず、広く社会に対して重要な問いを投げかけ続けています。

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