廣田精一

廣田精一（ひろた せいいち）は、日本の明治から昭和初期にかけて活動した教育者、工学博士、出版事業者です。1871年に広島県で生まれ、1931年に亡くなりました。現在の東京電機大学や神戸大学工学部の設立に深く関わったほか、理工学専門出版社オーム社の創業者として、日本の近代科学技術の振興と教育、情報普及に多大な貢献を果たしました。

東京帝国大学工科大学を卒業後、高田商会を経て、ドイツのシーメンス・ハルスケ社でも経験を積みました。

日本の工業化が途上にあった1907年、電気技術者育成の急務を痛感した廣田は、「後世、科学技術の総本山たらん」という理想を掲げ、扇本眞吉と共に東京に夜間学校「私立電機学校」（現・東京電機大学）を設立しました。さらに1921年には、神戸高等工業学校（現・神戸大学大学院工学研究科・工学部の前身）の開校に創立委員として関わり、初代校長に就任。同校の発展基盤を築きました。

技術情報普及の重要性を認識し、電機学校設立と同年の1907年に出版部を設置。1914年には電気工学専門誌「OHM」を創刊しました。これは学校付属事業として「オーム社」名義で発行され、1922年に株式会社として独立、理工学専門出版社へと発展しました。社名には、単位「オーム」と、扇本真吉（O）、廣田精一（H）、丸山莠三（M）の頭文字が由来とする説があります。

茅ヶ崎転居後、大正年間には海岸に広大な松林を植樹する緑化事業を実施。エニシダやハマエンドウを蒔き、湘南でエニシダが有名になるきっかけを作ったとされます。この植林地は没後、電機学校に寄付されました。東京電機大学キャンパス周辺地域が、後に秋葉原電気街の発祥に繋がった歴史的側面も指摘されます。

日本の自動車史においても特筆される人物です。1900年、皇太子ご成婚献納の電気自動車の扱いに困っていた日本で、廣田がその充電や運転を担当しました。これ以前にも自動車の輸入はありましたが、日本人による運転記録はなく、廣田が日本の国土で最初に自動車を運転した日本人であるとされます。その後も神戸高等工業で電気自動車研究を続け、製作した車両を博覧会に出品しました。

何事にも粘り強く取り組む精神「stick-to-it-iveness」を座右の銘としていたことは、彼の教育や事業にかける情熱と不屈の姿勢をよく表しています。

廣田精一は、教育、出版、初期の自動車導入など、多分野で先駆的な役割を果たし、日本の近代技術発展に貢献しました。その功績は今日の東京電機大学や神戸大学に引き継がれ、神戸大学工学部には功績を称える銅像が建てられています。

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