建設産業図書館

建設産業図書館

建設産業図書館は、東京都中央区築地に所在する、建設分野に特化した私設の専門図書館です。この図書館は、2002年11月に東日本建設業保証株式会社の創立50周年を記念して設立されました。建設に関する幅広い資料を系統的に収集・提供することにより、建設産業に関わる専門家や研究者、学生などの多様なニーズに応え、産業界の知識基盤を支える重要な役割を担っています。

収集対象資料

この図書館が収集の対象としているのは、建設に関するあらゆる分野の資料です。具体的には、建設産業の歴史や、土木・建築の歴史といった分野のほか、建設関連企業の社史、団体の沿革、さらには建設に貢献した人物の伝記など、過去から現在に至る産業の歩みを記録した資料が含まれます。加えて、建設関連の統計データや法規、建設労働に関する情報なども網羅しています。これらの資料の中でも、特に統計、社史・年史、そして伝記は、図書館が重点的に収集している重要な資料群として位置づけられています。

独自の分類体系

建設産業図書館では、膨大な専門資料を効率的に管理し、利用者がアクセスしやすいように、独自の分類体系を採用しています。これにより、専門性の高い資料群の中から、必要とする情報を迅速に見つけ出すことが可能となっています。

特色あるコレクション

この図書館の大きな特色の一つとして、他では見られないユニークなコレクションが存在する点が挙げられます。代表的なものとしては、「古川修文庫」と「菊岡俱也文庫」があります。古川修文庫は、京都大学名誉教授であり、建設生産システムや建設産業研究の第一人者として知られる古川修氏の遺族から寄贈された貴重な資料群です。これには、同氏が生涯にわたり収集・執筆した書籍、研究報告書、論文などが含まれています。古川氏は生前、建設分野における総合的な図書館や博物館の設立構想を提唱しており、自身の蔵書の寄贈先を探していました。その遺志を汲み、当時の建設産業図書館館長であった菊岡俱也氏がその蔵書を受け入れ、文庫として公開するに至ったという経緯があります。

「建設関連文学書」コーナー

建設産業図書館のもう一つの大変興味深い特色は、「建設関連文学書」と名付けられた特別なコーナーが設けられていることです。ここでは、建設、土木、建築といったテーマを題材とした文学作品が多数収集されており、その数は2017年11月時点で377点に上ります。近代文学の古典から現代の人気作家による作品まで、幅広い時代やジャンルを網羅しています。例えば、宮大工の生き様を描いた幸田露伴の『五重塔』、トンネル掘削に挑む姿を描いた菊池寛の『恩讐の彼方に』、江戸の水道敷設を扱った杉本苑子の『玉川兄弟江戸上水ものがたり』といった著名な作品や、歴史上の建築家を主人公にした夢枕獏の『シナン』、建築探偵の活躍を描く篠田真由美の『建築探偵桜井京介の事件簿』シリーズなどが収められています。図書館職員の江口知秀氏は、特に幸田露伴の『五重塔』に言及し、その主人公の大工が嵐の中ですら自らが建てた塔に絶大な信頼を寄せる姿に「責任施工の極み」を見出し、現代の建設業に携わるすべての人に読んでほしいと述べています。文学という異なる視点から建設業を見つめる機会を提供することは、この図書館ならではのユニークな取り組みであり、産業の多角的な理解を深める一助となっています。

専門情報機関としての価値

建設産業図書館は、建設業界のプロフェッショナル、研究者、学生にとって、専門的な知識や情報を得る上で欠かせない重要なリソースです。一般的な図書館では網羅しきれない専門性の高い資料や、独自の収集方針に基づいた希少なコレクションは、日本の建設産業の知識継承を支え、新たな知の創造を促進する基盤となっています。このような専門図書館の存在は、建設産業の持続的な発展に貢献する上で、非常に重要な役割を果たしています。

もう一度検索