弁論準備手続

弁論準備手続（べんろんじゅんびてつづき）は、日本の民事訴訟法第168条以下に定められた、裁判の効率化を目指す重要な手続です。その核心は、裁判の初期段階で紛争の争点（当事者間で食い違う事実関係）と、それを立証するための証拠を集中的に整理することにあります。

この手続の最大の目的は、裁判の長期化を防ぐことにあります。争点や必要な証拠が不明確なまま審理を進めると、後から新たな問題が生じ、手続きが混乱してしまいがちです。弁論準備手続を通じて、あらかじめ裁判の進行計画を明確にすることで、迅速かつ的確な解決を図ることができます。

争点整理は、弁論準備手続以外でも行われますが、特に複雑な事件などでは、この手続を利用して集中的に整理を行うのが現代民事訴訟の一般的な方法となっています。口頭弁論期日とは別に柔軟な期日設定が可能であることが、その利便性の理由です。

手続の開始は、裁判所が必要と判断し、当事者の意見を聞いた上で行われます。期日は、原則として当事者本人またはその訴訟代理人が立ち会い、裁判所が認める者以外は傍聴できない制限公開で行われるのが特徴です。

期日では、当事者双方が互いの主張や証拠に対する意見を詳細に述べ合い、裁判所の関与のもと、争点を絞り込み、必要な証拠を明らかにする作業が進められます。この場で、裁判官の助言を受けて和解による解決が話し合われることも少なくありません。

手続を主宰するのは、原則としてその事件を担当する裁判体ですが、合議事件の場合など、裁判体の構成員である受命裁判官（主に若手の陪席裁判官が担当することが多い）に行わせることも認められています。権限には違いがあり、書証（文書など）の証拠調べを実施したり、人証（証人や当事者本人）を尋問するかどうかの決定など、一定の裁判行為を行う権限は裁判体のみが行えますが、受命裁判官でも調査や鑑定の嘱託、書証の提出要求、文書の送付嘱託といった、証拠収集や事実関係の調査に必要な手続きは行うことができます。期日は弁論準備室や和解室などで開かれるのが通例です。

裁判所は弁論準備手続の進行に合わせて、当事者に対し準備書面の提出を命じることができます。また、当事者が遠隔地にいる場合など、期日への出頭が困難な状況では、電話会議システムを利用して手続を行うことも認められています。これは、裁判所と双方の当事者が同時に音声でやり取りできる状態で行われ、手続きの迅速化に役立っています。

弁論準備手続はあくまで口頭弁論期日外の準備段階の手続きであるため、終結後は改めて口頭弁論期日を開き、そこで手続きを通じて整理された争点や証拠調べの結果などを裁判官や相手方に対し陳述しなければなりません。これは、口頭弁論公開主義の原則に基づき、裁判の基礎となる事実関係や主張を公の場で明らかにすることを求めるためです。

さらに、弁論準備手続で時間をかけて争点整理を行った意義を尊重するため、手続が終結した後に新たな主張や証拠を提出する際には、一定の制約が課されます。具体的には、相手方から求められた場合、なぜ弁論準備手続が終わる前にその主張や証拠を出せなかったのか、その理由を説明しなければなりません。正当な理由がないにもかかわらず、意図的に遅れて提出された主張や証拠は、「時期に後れた攻撃防御方法」とみなされ、裁判所の判断によって却下される可能性もあります（民事訴訟法第157条）。これは、手続きの遅延を防ぎ、計画的な審理を確保するための措置です。

関連する手続には、口頭弁論、準備的口頭弁論といった民事訴訟の基本的な期日のほか、より集中的・計画的に審理を行うための書面による準備手続などがあります。また、刑事訴訟における同様の目的を持つ手続きとして、公判前整理手続があります。

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