弁護士記章

弁護士記章（弁護士バッジ）

弁護士記章は、日本において、日本弁護士連合会（日弁連）へ登録を完了した弁護士に貸与される記章です。一般的には「弁護士バッジ」という通称で広く知られています。

記章の形状と意味

この記章の標準的なものは、純銀製で表面に金メッキが施されています。長年の使用によりメッキが剥がれてくると、地金の銀色が表れます。希望する弁護士に対しては、純金製の記章が交付される制度もあります。

記章の表面デザインは、16枚の花弁を持つひまわり草の中心部に秤（はかり）が配されています。花弁部分は金色、中心部の地色は銀色です。このデザインにはそれぞれ象徴的な意味が込められており、ひまわりは正義と自由を、そして秤は公正と平等を表しています。日弁連はこの記章のデザインを商標登録しています。

記章の裏面には、「日本辯護士連合會員章」と旧字体で記された文字、そして弁護士ごとの登録番号が刻印されています。加えて、材質を示す「純銀」または「純金」の品位表記、および製造元である「造幣局製」の文字も確認できます。紛失などで再発行を受けた記章には、再発行の回数を示す印も刻まれます。

装着方法の変更

かつて、弁護士記章は男性用スーツの左襟にあるボタン穴への装着を想定したネジ留め式が主流でした。しかし、女性用スーツにはボタン穴が無いことが多いため、ジェンダー平等の観点から装着方法の見直しが求められました。2021年（令和3年）に札幌弁護士会がピン留め式への変更を日弁連に申し入れ、その結果、2023年（令和5年）12月を目途に、全国の弁護士に交付される記章はネジ留め式からピン留め式へ切り替えられることになりました。

身分証明としての役割

弁護士記章は、弁護士が日弁連の弁護士名簿に登録された際に貸与されます。これは、司法試験に合格し、司法修習を終え、弁護士として適法な活動が可能になった段階で初めて手にすることができるものです。弁護士であれば必ずこの記章を携帯しているため、記章を示すことで、裁判所への入館手続きや、警察署などでの依頼者との接見がスムーズに進むといった実務上の利便性があります。

日弁連の会則では、弁護士は職務を行う際に記章を携帯することが義務付けられており、これが弁護士の身分を示す重要な証となっています。弁護士会が発行する身分証明書が存在しなかった時代には、この記章が弁護士であることを証明する唯一の手段でした。そのため、弁護士記章規則では、職務遂行中に裁判所や関係者から要求があれば、携帯する記章の登録番号を示す必要があると定められています。

現在では、会則・規則の改正（2014年）により、記章の「帯用（身につけること）」から「携帯」へと要件が緩和されました。弁護士は記章または弁護士会発行の身分証明書のいずれかを携帯すればよく、求められた際に登録番号を示す際も、いずれかの証票を示せば足りるとされています。記章は弁護士登録と同時に自動的に交付されますが、身分証明書は請求しなければ発行されないため、記章のみを携帯して職務にあたる弁護士も少なくありません。

紛失時の対応

弁護士記章は弁護士にとって重要な身分証であるため、その取り扱いは厳重に行われています。万が一、弁護士が記章を紛失してしまった場合は、日弁連および所属弁護士会に所定の紛失届と再交付申請書を提出する必要があります。この申請書には紛失した具体的な事情を記載しなければなりませんが、多くの弁護士が「不慮の事故」などと簡潔に記すことが多いとされています。

記章の再交付にかかる費用は、紛失した弁護士自身の負担となります。例えば銀製記章の場合、記章代と官報公告料が発生します。再交付された記章の裏面には、「再」の文字とともに再交付を受けた回数が刻印されます（例えば、初めての紛失の場合は「再1」）。

日弁連は、弁護士から紛失届を受理すると、直ちに弁護士名簿にその事実を記載し、官報に公告する手続きを行います。また、再交付を行った際には、紛失した記章の登録番号と弁護士の氏名を、速やかに最高裁判所および検事総長へ通知することが定められています。

弁護士の象徴

弁護士記章のデザインに用いられているひまわりは、弁護士の象徴として様々な場面で使われています。例えば、弁護士を目指す女性を描いたドラマのタイトルが「ひまわり」であったり、弁護士が少ない地域での法的サービス提供を目的として、日弁連などの支援により開設・運営される公設法律事務所が「日弁連ひまわり基金法律事務所」と名付けられていることなどが挙げられます。

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