式場の微笑

『式場の微笑』

松本清張による短編小説『式場の微笑』は、1975年に『オール讀物』で発表され、1977年には中短編集『馬を売る女』に収録されました。物語の主人公、杉子は多くの資格を取得した資格マニアです。英語や珠算はもちろん、和服の着付けに関しても習得を重ねており、上位資格の取得を間近に控えています。しかし、学業に専念するあまり、結婚に関しては遠ざかってしまっていました。

ある日、同級生の浜井祥一郎から結婚披露宴の招待状が届くと、杉子はその披露宴に参加することを決めます。なぜなら、他の参加者の和服姿が自分の参考になるかもしれないと考えたからです。彼女は披露宴に向かい、ロビーで談笑する招待客たちを観察しています。そこで、杉子は40歳前後の中年男性と目が合います。彼は一瞬ためらいつつも、やがて微笑を浮かべました。その瞬間、杉子はなぜか不安に襲われました。

やがて新郎新婦が現れ、招待客に対して挨拶を交わします。そこで、杉子と新婦・真佐子の目が合った瞬間、真佐子は驚いたように大きな目で杉子を見つめます。この光景を目にした杉子は、昔の出来事が記憶の中によみがえります。数年前の年末、杉子は着付け教室でアルバイトの話を受けたことがあります。成人式の日に振袖の着付けのため、出張しなければならないという依頼があったのです。

その時の出来事が、杉子の心に大きな影響を及ぼしていました。アルバイトの依頼先は、まさかのラブ・ホテルだったのです。和服の晴れ着の着付けを必要とする若い娘たちは、自分で着付けができず、帰りに他人に着せてもらうことが多いとなると、ホテル側から着付け教室に依頼するのが一般的です。このような仕事は主に呉服屋が主催する着付け教室が行います。

物語は、杉子が微笑む男や新婦との一瞬の交わりを通じて、自分の人生や選択肢について思いを巡らす様子が巧みに描かれています。特に、式場という特別な空間において、杉子の心情がどのように揺れ動くかが、清張の文体によっていきいきと表現されています。彼女の心の葛藤や過去への後悔、新たな出会いの期待が織り交ぜられ、読者は彼女と共に感情の波を体感することができます。

また、『式場の微笑』は1975年11月にTBSでテレビドラマ化され、高い視聴率を記録しました。脚本は砂田量爾が担当し、プロデューサーには石井ふく子、監督には坂崎彰が起用されました。このドラマでは、杉子や真佐子を演じるキャストたちの演技が、原作の持つ緊張感や情緒を見事に映し出しています。

このように、松本清張の『式場の微笑』は、資格や結婚を通じて人間の複雑な感情を描いた短編小説であり、その内容は今なお多くの読者に強い印象を与えています。

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