式部卿宮の北の方

式部卿宮の北の方：嫉妬と策略の女

源氏物語に登場する式部卿宮の北の方（しきぶきょうみやのきたのかた）は、物語を彩る主要人物の一人です。兵部卿宮（のちに式部卿宮）の正妻として、高貴な家柄と威厳を備えています。彼女は「髭黒の北の方」の母であり、冷泉帝の王女御など複数の娘を持つ、複雑な立場の人物でもあります。物語においては、光源氏とその愛妾である紫上への嫉妬心と、その嫉妬心からくる策略が物語の展開に大きな影響を与えます。

物語における役割と行動

若紫の巻から若菜下の巻まで、式部卿宮の北の方の姿は物語を通して描かれます。当初は、紫上の母である紫式部を疎み、光源氏との関係を邪魔しようとします。紫上が光源氏に引き取られた後も、その幸せを素直に喜ぶことはなく、常に嫉妬の念を燃やしていました。

須磨の巻では、光源氏と離れ離れになった紫上を執拗に中傷し、その不幸を嘲笑するかのような言動を見せます。少女の巻では、光源氏が夫である式部卿宮の五十の賀を行った際、自身の娘である王女御への配慮が足りないことを不満に感じます。夫への不満を隠さず、自身の立場を利用して、自分の娘の立場を向上させようとする場面が見られます。

真木柱の巻では、娘である髭黒の妻が光源氏の養女である玉鬘に夫を奪われたと激昂し、式部卿宮に八つ当たりします。このエピソードは、彼女の猜疑心と、身勝手な行動様式を浮き彫りにしています。

若菜上と若菜下の巻では、孫娘の真木柱と結婚した蛍兵部卿宮に対し、結婚後の態度を激しく非難し、罵声を浴びせます。この行動によって、蛍兵部卿宮との関係はさらに悪化し、物語に新たな波乱を呼ぶことになります。

物語における存在意義

式部卿宮の北の方という人物は、物語全体を通して、光源氏と紫上の関係に陰を落とす存在として描かれています。彼女が持つ嫉妬心や策略は、物語の主要な出来事を引き起こす重要な推進力となっています。彼女の行動は、時には物語に緊張感を与え、時には悲劇的な展開を招くなど、物語の深みと複雑さを増す役割を果たしています。

一方で、彼女自身の背景や心情についても、物語からは様々な解釈が可能です。高貴な出自を持つ彼女が、なぜここまで嫉妬心に囚われ、策略を巡らすのか。その背景には、自身の立場やプライド、娘たちへの思いなど、複雑な感情が絡み合っていると考えられます。

参考文献

篠原昭二「作中人物事典 式部卿宮の大北の方」秋山虔編『源氏物語事典』学燈社〈別冊国文学〉No.36、1989年（平成元年）5月10日、p. 283。
「式部卿の宮の北の方」西沢正史編『源氏物語作中人物事典』東京堂出版、2007年（平成19年）1月、p. 254。　ISBN 978-4-490-10707-4


式部卿宮の北の方という人物像は、現代においても読者の様々な解釈を呼び起こし、物語の奥深さを物語る重要な要素となっています。彼女の存在を通して、人間の複雑な感情や、身分や立場による葛藤、そして運命の残酷さなどが浮き彫りになっています。

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