弓町本郷教会

東京都文京区本郷に佇む弓町本郷教会は、日本基督教団に属する長い歴史を持つキリスト教会です。

その始まりは、1886年4月に行われた日本組合基督伝道会社の第9年回に遡ります。この会合で日本組合基督教会の組織化が決定されたのを機に、それまで本格的な伝道が行われていなかった東京での活動に力が入れられることとなり、8名の伝道者が派遣されました。安中教会の牧師であった海老名弾正もこの派遣に加わり、東京での伝道に尽力しました。

同年10月10日、本郷湯島の神田明神坂上にあった旧大名屋敷を拠点として伝道が開始されました。この頃、西片町（現在の日本基督教団駒込教会）、春木町、森川町といった地域でも集会が開かれるようになります。しかし、翌1887年に海老名弾正が熊本へ帰郷した後、義兄である横井時雄（横井小楠の長男）が牧師職を引き継ぎました。

教会は順調に発展し、1891年には本郷東竹町に新たな会堂を建設します。海老名弾正や横井時雄、押川方義といった面々は基督教同志会を結成し、協力して伝道活動に取り組みました。しかし、横井時雄が同志社へ移ったことが契機となり、組合教会に反対する勢力が教会内に生じ、混乱から一時的に教会を解散せざるを得ない状況となりました。

教会はその後、海老名弾正の手によって再建されました。さらに、ライオン歯磨の創業者として知られる小林富次郎がこの教会に移籍してきたことは、教勢を大きく高める要因となりました。小林富次郎は終生にわたり、海老名を経済的・精神的に支え続けました。教会がようやく落ち着きを取り戻したのも束の間、1898年4月の本郷大火によって、建設間もない会堂は残念ながら焼失してしまいました。

会堂を失った教会ですが、伝道活動は続けられ、1900年には教会の機関誌として『新人』が創刊されます。この『新人』の編集には、三沢糾や吉野作造といった東京帝国大学の学生でクリスチャンであった人々が深く関わるようになります。これをきっかけに、多くの東大生が教会に集まるようになり、本郷教会は「書生の教会」と呼ばれるようになりました。

1901年4月には、本郷壱岐坂の地に新たな会堂が再建されます。そして、1903年には日本組合基督教会に正式に加入することになります。しかし、教会は再び試練に見舞われます。1923年に関東大震災が発生し、壱岐坂の会堂もまた倒壊・焼失してしまいました。

震災からの復興を経て、1927年12月、現在の本郷弓町の地に新しい会堂が建設されました。この会堂は、建築家の中村鎮によって設計されたもので、教会建築として評価の高い建物となっています。

第二次世界大戦中の1941年、日本のプロテスタント諸教会が合同して日本基督教団が設立された際、本郷教会もこれに加入しました。この時に、教会名が現在の「弓町本郷教会」と改称されました。

長年にわたり地域の歴史を見守ってきた現在の会堂は、その建築様式や歴史的価値が認められ、2021年1月14日に国の登録有形文化財に登録されました。

弓町本郷教会は、設立当初からの幾多の困難や試練を乗り越え、日本の近代キリスト教史において重要な役割を果たしてきました。特に明治・大正期には、多くの学生や知識人が集う知的な交流の場、「書生の教会」としてユニークな存在感を示しました。現在も、その美しい会堂とともに、地域に根差した教会として歩み続けています。

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