引眉

引眉の歴史

引眉（ひきまゆ）は、奈良時代にさかのぼる伝統的な化粧法で、現在の眉メイクのルーツとされています。この手法は、眉を剃るか抜くことを基本としており、その後に墨で眉を描く作業が行われました。

奈良時代

奈良時代においては、眉を剃ったり抜いたりした後、細い弓形の眉を墨で描くことが一般的でした。この時期の眉の形は、女性の美しさを引き立てる重要な要素とされていました。

平安時代から安土桃山時代

平安時代に入ると、眉の形状に変化が見られます。この時期、眉を剃った後、除去した眉よりも高い位置に「殿上眉」と呼ばれる長円形の眉を墨で描くスタイルが流行しました。この化粧法は、元々裳着の際にお歯黒と合わせて行われていましたが、平安時代中期からは男性貴族や平家の武将の元服時にも取り入れられるようになりました。

室町時代になると、殿上眉はさらに高く描かれるようになり、能面にもその影響が見られます。能楽の演技や表現においても、引眉は重要な役割を果たすようになりました。

江戸時代

江戸時代に入ると、この引眉の習慣は主に女性に限られるようになりました。特に既婚女性や、18〜20歳以上の未婚女性が元服の際にお歯黒とセットで引眉を行うことが一般的でした。この時期までの引眉は、眉を剃った後に元の眉を薄い墨でなぞるスタイルでしたが、江戸後期以降は眉を描かないケースが多くなりました。

また、演劇や浮世絵では剃った跡を薄い青で表現する「青黛」という手法が使われ、このスタイルは引眉文化の一部として定着しました。さらに、幕末から明治時代にかけては、2歳から12歳の少女が眉を剃る姿がしばしば見られました。

明治時代

明治時代に入ると文明開化の影響で引眉は衰退し、特に中期以降はほとんど見られなくなりました。ただし、伝統的な祭りや一部の演劇においては、その名残を見ることができました。

大正から現代

大正時代以降、引眉はほとんど行われなくなり、現在では失われた文化の一部として位置づけられています。しかしながら、近年の眉メイクの流行は、過去の伝統を再評価する形で現れることがあり、引眉文化の影響を見ることができます。


引眉は、日本の美意識や文化の変遷を象徴する重要な化粧法として、長い歴史を持っています。その歴史を通じて、日本人の美に対する感覚や価値観がどのように変わってきたのか、興味深く知ることができます。

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