弦 (春秋)

弦（げん）

弦は、周王朝の時代に存在した諸侯国の一つです。比較的規模が小さく、周辺の強国に翻弄される歴史を歩みました。特に斉と楚という二大勢力の動向に大きく影響を受けました。

紀元前7世紀、斉の桓公は強大な軍事力を背景に諸侯を束ね、覇者としての地位を確立しました。紀元前656年、桓公は諸侯連合軍を率いて南方の楚を討伐します。当時の楚はまだ勢力が弱く、斉の軍勢に屈して同盟に加入することを余儀なくされました。

斉と楚の力関係は周辺諸国にも明白であり、楚に近い諸侯国の中には、斉に寝返る動きが相次ぎました。この流れの中で、弦もまた斉の勢力圏に取り込まれていきます。さらに、弦と縁戚関係にあった江、黄、道、柏などの諸侯国も、斉と和睦を結び、斉を中心とした新たな国際秩序が形成されていきました。

しかし、この状況は長くは続きませんでした。斉の力が強大である一方で、楚も次第に力を蓄え、斉との対立を深めていきました。紀元前655年、楚は軍勢を動かし、斉の勢力下にあった弦を攻撃しました。弦は楚の圧倒的な軍事力の前に抵抗できず、あえなく滅亡してしまいます。弦の君主は、隣接する黄に逃れて難を逃れましたが、国としての弦は歴史の舞台から姿を消しました。

弦の歴史は、春秋時代の諸侯国が、大国の興亡に翻弄された一例と言えます。斉の覇権によって一時的に安定したかに見えた国際秩序も、新たな強国の台頭によってたちまち崩れ去り、中小の諸侯国は常に存亡の危機に晒されていました。弦の滅亡は、このような春秋時代の激動を象徴する出来事の一つと言えるでしょう。



参考文献

* 楊伯峻《春秋左伝注》

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