弦楽三重奏曲 (シューベルト)

シューベルトの弦楽三重奏曲

フランツ・シューベルトは、その短い生涯において多くの室内楽曲を作曲しましたが、弦楽三重奏曲のジャンルに属する作品は、断片を含むわずか2曲が現存するのみです。これらはどちらも変ロ長調で書かれており、第1番D471と第2番D581として知られています。これらの作品が作曲された具体的な動機については、残念ながら明らかになっていません。特に第1番は未完に終わっており、シューベルトのこのジャンルに対する取り組みの全体像を知る上で、完成された第2番が重要な位置を占めています。

シューベルトの弦楽三重奏曲は、一般的に演奏される機会が少なく、録音も豊富ではありません。しかし、ベートーヴェンの円熟した弦楽三重奏曲に続く世代の作品として、またシューベルト特有の旋律美や和声の探求が見られる作品として、一部の音楽愛好家や研究者の間で価値が認められています。

第1番 変ロ長調 D471

この作品は1816年に作曲が開始されましたが、残念ながら途中で放棄され、未完のまま残されました。作曲を断念した理由については、現在も不明です。完成しているのは第1楽章のみで、続く第2楽章はわずかな断片しか残っていません。

構成

第1楽章： Allegro
変ロ長調、4分の4拍子。全体の規模は202小節からなり、演奏時間は約8分程度です。生き生きとした主題と展開が特徴的です。

第2楽章： Andante sostenuto
変ホ長調、4分の3拍子。この楽章は39小節分の断片のみが現存しており、完成には至りませんでした。

第2番 変ロ長調 D581

この作品は、第1番から約1年後の1817年9月頃に作曲されました。こちらは全4楽章が完全な形で残されており、シューベルトの唯一の完成された弦楽三重奏曲と見なされています。作曲者自身による初演は行われず、彼の死後、半世紀以上を経た1869年2月15日にロンドンで初めて公開演奏されました。この記念すべき初演は、聖ジェームズ・ホールにおいて、著名なヴァイオリニストであるヨーゼフ・ヨアヒム、ヴィオラのブラグロブ、そしてチェロの名手アルフレード・ピアッティという当時の名手たちによって行われました。

構成

この作品は伝統的な全4楽章構成をとっており、全曲の演奏時間は約20分から25分です。

第1楽章： Allegro moderato
変ロ長調、4分の4拍子。古典的な小ソナタ形式で書かれており、穏やかながらも推進力のある楽章です。

第2楽章： Andante
ヘ長調、8分の6拍子。美しい旋律が特徴的な3部形式の緩徐楽章です。

第3楽章： メヌエット Allegretto
変ロ長調、4分の3拍子。トリオは変ホ長調です。典雅なメヌエットと、対照的なトリオからなります。

第4楽章： ロンド Allegretto
変ロ長調、4分の2拍子。ロンド形式で書かれており、主要主題と2つの異なるエピソード（クプレ）が繰り返され、活気のあるフィナーレを飾ります。

シューベルトの弦楽三重奏曲は、彼の才能の一端を示す貴重な作品群であり、特に完成された第2番は、その後の室内楽作品に通じる彼の個性的な語法を垣間見ることができます。

もう一度検索