弦楽四重奏曲第10番 (モーツァルト)

モーツァルト：弦楽四重奏曲第10番 ハ長調 K. 170

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトによって1773年に生み出された弦楽四重奏曲第10番ハ長調、ケッヘル番号170は、同時期に作曲された一連の作品群、いわゆる「ウィーン四重奏曲」全6曲のうちの3番目に位置づけられる楽曲です。このため、「ウィーン四重奏曲第3番」という別称でも知られています。

作品の背景と特徴

この弦楽四重奏曲は、1773年の8月にオーストリアの首都ウィーンで作曲されました。この時期、モーツァルトは自身の音楽語法を探求しており、特に弦楽四重奏というジャンルにおいて、様々な構成や表現の可能性を試みていました。K.170を含む「ウィーン四重奏曲」シリーズ全体に、こうした実験的な姿勢が顕著に表れていますが、中でもこの第10番は、楽章の配列に大胆な創意が見られる作品として特筆されます。

当時の一般的な弦楽四重奏曲は、通常、速いテンポの第1楽章で開始されるのが常套手段でした。しかし、本作では、序盤に緩やかなアンダンテのテンポが置かれ、しかも主題と変奏という形式が採用されています。これは、慣例にとらわれないモーツァルトの作曲上の意欲を示すものと言えるでしょう。

また、古典派四重奏曲の標準的な構成では、通常、緩徐楽章、メヌエット（あるいはスケルツォ）、そして終楽章という流れをとりますが、この作品ではメヌエット楽章の後に、終楽章の前に再びアダージョの緩徐楽章が挿入されています。これにより、作品全体で二つの緩徐楽章を含むという、非常に珍しい楽章配置が実現されているのです。このような構成は、聴き手に予測不能な展開をもたらし、作品に独特の性格を与えています。

楽章構成

全4楽章からなり、全体の演奏時間は約14分です。各楽章は以下の通りです。

第1楽章：主題と変奏：アンダンテ
ハ長調、4分の2拍子。変奏曲形式で書かれています。穏やかな主題が提示された後、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがそれぞれソロや対話的に主題を変化させていきます。変奏曲は、提示された主題を基に、リズム、旋律、和声などを様々に変化させて繰り返していく形式であり、作曲家の創意工夫が試されます。

第2楽章：メヌエット - トリオ
ハ長調、4分の3拍子。複合三部形式のメヌエット楽章です。優雅なメヌエット主部と、それに対比的なトリオ部分から構成されます。メヌエット主部に戻って終わる典型的な構造をとります。

第3楽章：ウン・ポコ・アダージョ
ト長調、4分の3拍子。三部形式で書かれています。「少しゆっくりと」という意味の速度指示を持ち、内省的で美しい旋律が特徴的です。メヌエットの後に置かれるこの緩徐楽章が、作品に深みと変化を与えています。

第4楽章：ロンドー：アレグロ
ハ長調、4分の2拍子。ロンド形式による終楽章です。活発で軽快な主題が何度も現れ、間に異なる楽想のエピソードが挟まれます。ロンド形式は、特定の主題（ロンド主題）が繰り返され、全体を統一感のあるものにする形式であり、しばしば終楽章に用いられます。この楽章は、作品を明るく締めくくります。

まとめ

弦楽四重奏曲第10番 K.170は、モーツァルトが若き日に、ウィーンで作曲した弦楽四重奏曲の一つとして、その独特な楽章構成によって特に注目されます。初期の作品でありながら、古典派の規範に留まらないモーツァルトの斬新な発想や探求心を示す興味深い作品と言えるでしょう。約14分というコンパクトな中に、多様な楽想と実験精神が凝縮されています。

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