弦楽四重奏曲第3番 (モーツァルト)

弦楽四重奏曲第3番 ト長調 K. 156 (134b)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲した弦楽四重奏曲の一つであり、彼の若き日の傑作として知られています。この作品は、モーツァルトが1772年秋にイタリアのミラノに滞在していた時期に書かれました。彼はこのミラノ滞在中に一連の弦楽四重奏曲を作曲しており、それらは総称して『ミラノ四重奏曲』と呼ばれています。本作はその6曲のうちの2番目に位置づけられるため、『ミラノ四重奏曲第2番』とも呼ばれます。

作曲の背景と特徴

この弦楽四重奏曲第3番は、同じくミラノ四重奏曲である第2番（K. 155）の完成後に、1772年の10月以降にミラノの地で生み出されたと考えられています。当時のミラノはオーストリア領であり、音楽においてもウィーンの影響を受けつつ独自の発展を遂げていました。モーツァルトは、現地の音楽的な流行を敏感に捉え、この作品に取り入れています。

特に注目されるのは、全3楽章構成のうち、第3楽章にメヌエット形式を採用している点です。これは当時のミラノで流行していた楽章配置であり、ウィーンがミラノを統治していたことへの敬意を示す意図もあったのではないかと考えられています。また、音楽の書式においても、当時の先端を行く模倣対位法の手法を取り入れるなど、若きモーツァルトが積極的に新しい技法を吸収し、自身の音楽に反映させていた様子がうかがえます。約13分で演奏されるこの作品は、簡潔ながらも若々しい活気に満ちています。

楽章構成

この四重奏曲は以下の3つの楽章で構成されています。

1. 第1楽章 プレスト
ト長調、8分の3拍子、ソナタ形式。非常に速いテンポが指定されており、8分の3拍子の軽快なリズムに乗って、明るく活気に満ちた主題が展開されます。ソナタ形式の構造の中に、若きモーツァルトらしい創意とエネルギーが凝縮された楽章です。

2. 第2楽章 アダージョ
ホ短調、4分の4拍子、二部形式。この楽章にはモーツァルト自身による改訂版が存在します。一般的に演奏されるのはこの改訂版であり、元の楽章は破棄されたと考えられています。アダージョの速度とホ短調という調性が相まって、内省的でやや憂鬱な雰囲気を帯びた音楽が奏でられます。前の楽章の活気とは対照的な、深みのある緩徐楽章です。

3. 第3楽章 テンポ・ディ・メヌエット
ト長調、4分の3拍子。ミラノの流行を取り入れたメヌエット楽章です。優雅なメヌエット主題とトリオ部分からなり、典雅でありながらも、この時期のモーツァルト作品に characteristic な軽やかさと美しさを兼ね備えています。終楽章として、曲全体を明るく締めくくります。

弦楽四重奏曲第3番は、モーツァルトが旅行先で吸収した多様な音楽語法を試みながら、自身のスタイルを確立していく過程を示す興味深い作品であり、ミラノ四重奏曲の中でも特に魅力的な一曲として親しまれています。

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