弦楽四重奏曲第5番 (シューベルト)

弦楽四重奏曲第5番 変ロ長調 D 68

フランツ・シューベルト初期の弦楽四重奏曲の一つ、変ロ長調の弦楽四重奏曲第5番 作品番号D 68は、1813年に作曲されました。

作曲の背景と異例の構成

この作品は、シューベルトが前作である『弦楽四重奏曲第4番 ハ長調』（D 46）を完成させたわずか1ヶ月後の1813年6月8日に作曲が開始されました。同年6月16日には第1楽章が完成し、続いて8月18日には第2楽章が書き上げられています。

しかし、注目すべき点は、この作品がわずか2つの楽章のみで構成されていることです。一般的な弦楽四重奏曲が4つの楽章を持つことを考えると、これは極めて異例な形と言えます。なぜ中間楽章（通常は緩徐楽章やメヌエット、スケルツォなど）を欠いているのかについては、いくつかの説が提唱されています。

一つには、シューベルト自身がこの2つの楽章だけで作品として完成していると考えた、あるいは何らかの事情で意図的にこのような構成にしたという説があります。また別の説としては、本来存在するはずだった中間楽章が、後の時代の写譜や整理の過程で失われてしまったという可能性も指摘されています。さらに、シューベルトがこの曲を未完成のまま残したのではないか、という見方もあります。しかし、これらの説を裏付ける決定的な証拠はなく、なぜ2楽章構成なのかという正確な理由は、現在も明らかになっていません。

楽曲の特徴

『弦楽四重奏曲第5番』は全2楽章で構成されており、全体の演奏時間は約14分です。

音楽的な特徴としては、同時期に書かれた前作の第4番と多くの共通点が見られます。特に、半音階を効果的に用いた書法が顕著に現れています。

一方で、この第5番は第4番からいくつかの点で重要な進歩を遂げています。例えば、音楽の核となる動機を発展させる手法や、リズムの変化を付けて楽曲に多様性をもたらす工夫がより巧みになっています。また、全体の構成をより大規模に、かつ有機的にまとめ上げる力も増しています。さらに、四つの声部（ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ）のバランスも洗練され、各パートが対等に扱われながらも全体として調和が保たれています。

各楽章の紹介

第1楽章：アレグロ

変ロ長調、4分の4拍子、ソナタ形式で書かれています。この楽章は、付点音符と3連音符のリズムを特徴とした、推進力のある音楽を展開します。音楽評論家によっては、この力強く前に進む性格にベートーヴェンの影響を見る向きもありますが、四つの楽器がそれぞれ独立した旋律線を持ちながらも均等なバランスを保っている点においては、むしろハイドンの弦楽四重奏曲に共通する要素も感じられます。

第2楽章：アレグロ

変ロ長調、4分の2拍子、ロンド形式で構成されています。この楽章では、シューベルトが好んで用いた、親しみやすく軽快な舞曲風の主題が登場します。快活なリズムと旋律が展開され、全体を明るく締めくくります。

『弦楽四重奏曲第5番』は、2楽章という異例の構成に留まりつつも、シューベルトがこの時期に弦楽四重奏というジャンルにおいて着実に作曲技法を磨き、音楽的な表現力を高めていたことを示す重要な作品と言えるでしょう。

もう一度検索