弦楽四重奏曲第6番 (モーツァルト)

弦楽四重奏曲第6番 変ロ長調 K. 159

概要

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲した弦楽四重奏曲第6番 変ロ長調 K. 159は、1773年の初頭、彼がイタリアのミラノに滞在していた時期に生み出されました。この作品は、モーツァルトが同時期に作曲した他の5曲と共に、「ミラノ四重奏曲」と呼ばれる6曲組の一部をなしており、「ミラノ四重奏曲第5番」としても知られています。

当時のモーツァルトは、イタリア旅行を通じて現地の音楽様式を吸収し、自身の作曲技法を磨いていました。特に弦楽四重奏曲は、ウィーン古典派の重要なジャンルであり、モーツァルトはこの時期に精力的に作曲に取り組むことで、このジャンルにおける自らの表現を確立していきました。この第6番も、そうした探求の過程を示す作品と言えるでしょう。

音楽的特徴

この弦楽四重奏曲は、先行する作品群、特にミラノ四重奏曲の他の作品と共通するいくつかの特徴を持っています。例えば、前作にあたる第5番 K. 158と同様に、この曲では弦楽器群の低音部にバスパートが付加されており、これは当時の標準的な四重奏編成よりも、より豊かな響きを持つ弦楽合奏を思わせるような構成となっています。

また、楽章の配列にも独自の工夫が見られます。この曲は、通常の弦楽四重奏曲が速いテンポの楽章で開始することが多いのに対し、第1楽章にアンダンテの緩やかな楽章を、そして第2楽章にアレグロを配置するという、楽章順序の「倒置」が見られます。この構成は、モーツァルトが以前に作曲した初期の弦楽四重奏曲、第1番『ローディ』K. 80にも見られたものであり、彼の初期の四重奏曲における興味深い試みの一つと言えます。

作品全体としては、当時のイタリアで流行していた音楽様式を取り入れつつも、単なる模倣に終わらず、モーツァルトならではの独創的な音楽性が光っています。特に、全楽曲の中心的な存在とも言えるト短調で書かれた第2楽章は、短調特有の情熱的で劇的な雰囲気を帯びており、この楽章からは、後に作曲されることになる彼の傑作の一つ、『交響曲第25番 ト短調 K. 183』の音楽的な片鱗や雰囲気を先取りしているかのような趣が感じられます。このことは、若きモーツァルトが既に、後の創作に通じる深い表現力を持ち始めていたことを示唆しています。

曲の構成

この弦楽四重奏曲は、以下の3つの楽章で構成されています。全体の演奏時間は約12分程度です。

1. 第1楽章 アンダンテ
変ロ長調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）、ソナタ形式で書かれています。緩やかなテンポで始まり、穏やかでありながらも expressive（表情豊か）な旋律が展開されます。

2. 第2楽章 アレグロ
ト短調、4分の3拍子、ソナタ形式。前楽章から一転して、速いテンポと短調特有の厳しさや情熱が特徴的な楽章です。この楽章にこそ、後のト短調交響曲に通じるドラマティックな要素が凝縮されています。

3. 第3楽章 ロンド：アレグロ・グラツィオーソ
変ロ長調、4分の2拍子、ロンド形式。「優雅に、速く」という意味の指示が示す通り、軽やかで魅力的な主題が繰り返される楽しいフィナーレです。主調である変ロ長調に戻り、曲全体を明るく締めくくります。

弦楽四重奏曲第6番 変ロ長調 K. 159は、モーツァルトの初期の四重奏曲における試みや成長を示す興味深い作品であり、後の彼の偉大な室内楽作品群への重要な一歩を示すものです。

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