強制通用力

強制通用力とは

強制通用力とは、貨幣が持つ、額面表示された価値で決済の最終手段として認められる効力のことを指します。本来は、兌換義務が停止された銀行券にも法律で通用力を認める「cours forcé（強制通用力）」と、金銭債務の弁済として受領が強制される「cours légal（法定通用力）」を区別しますが、日本では一般的に強制通用力が法定通用力の意味で用いられることが多いです。

概説

強制通用力を与えられた通貨は「法貨」と呼ばれ、主要国では中央銀行が発行する銀行券や政府が発行する貨幣（硬貨）がこれに当たります。法貨による決済は、額面価値の範囲で最終的な決済と認められ、受け取りを拒否することができません。この保証は国家によってなされています。

貨幣が支払手段として機能するのは、富として蓄えられる価値の保蔵機能と、誰でも受け取ってくれるという一般受容性があるためです。中央銀行の銀行券が市中流通で求められる要件としては、堅牢性、安全性、利便性、社会的受容性などが挙げられ、強制通用力は社会的受容性の一部と考えられます。

法貨の受領強制については国や時代によって異なり、日本では債権者が受け取らない場合、民法上の受領遅滞となります。一方で、フランスでは法貨の受領拒否に対して刑事罰を科すことができる規定があります。歴史的には、中国で紙幣の受領拒否が死刑とされたり、フランスでアッシニア紙幣の受領拒否に厳しい刑罰が科された例もあります。

欧米地域の法貨

英国

英国では、1844年のピール銀行条例でイングランド銀行券に初めて強制通用力が認められました。現在、イングランド銀行券はイングランドおよびウェールズで法貨とされています。金貨は無制限に、その他の硬貨は一定限度額まで法貨として認められています。

米国

米国では、連邦準備券と貨幣（硬貨）がすべての債務、公課、租税、関税において法貨とされています。連邦準備券は連邦準備銀行の銀行券に相当します。過去には連邦準備銀行券や国法銀行券も法貨でしたが、現在は発行が停止されています。

日本での法制度

日本では、日本銀行券と貨幣（硬貨）の2種類の現金通貨が法定通貨として発行されています。日本銀行券には無制限の強制通用力があり、貨幣には額面の20倍までという制限付きで強制通用力が認められています。

強制通用力を持つ通貨による支払いは最終的なものであり、受取人は受け取りを拒否できません。拒否した場合は民法上の受領遅滞となり、債権者側が不利になることがあります。

日本銀行券

日本銀行法46条2項により、日本銀行券は「法貨として無制限に通用する」と定められています。旧日本銀行法でも同様の規定があり、現在発行されていない旧紙幣も有効であれば法貨として使用できます。

貨幣

「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」により、貨幣（硬貨）は額面の20倍まで強制通用力を持つと定められています。これは、計算や保管の煩雑さを考慮したものです。ただし、当事者間の合意があれば、額面の21倍以上の貨幣を使用することも可能です。旧貨幣も有効であれば法貨として使用できます。

民法との関係

民法402条では、債務者は原則として各種通貨で弁済できるとされています。ただし、特定の種類の通貨が弁済期に強制通用力を失った場合は、別の通貨で弁済する必要があります。学説上は、この「通貨」とは日本国内で強制通用力を持つ銀行券および貨幣のことと解釈されています。

強制通用力の根拠については、日本銀行法等の法貨を定める規定から直接生じるとする説と、民法402条が具体的効果を定めているとする説があります。

その他の法令

債務弁済方法の指定については、法令により制限される場合があります。例えば、給与や税金の支払いが該当します。また、租税などの公納については、銀行などを介さない直接納付であれば無制限の通用が認められています。

外国為替及び外国貿易法上の外国通貨及び金貨

外国為替及び外国貿易法では、「外国通貨」を「本邦通貨以外の通貨」と定義しており、強制通用力のある通貨であれば、たとえ支払手段として使用しない場合でも「外国通貨」として扱われます。また、「流通していない金貨」についても、強制通用力のある金貨が額面金額を超える価額で取引される場合、貴金属として扱われます。

キャッシュレス決済との関係

近年、キャッシュレス決済の普及により、現金支払いをお断りする店舗も存在します。これは、契約自由の原則に基づき、店舗が支払い条件を提示し、顧客がそれを了承することで売買契約が成立するためです。しかし、事前の合意がない場合は、通貨の強制通用力により現金支払いを拒否することはできません。

通貨の流通性と強制通用力

1950年代から1960年代にかけて、兌換が停止された不換銀行券の性質について、信用貨幣説と国家紙幣説が対立しました。1971年の米ドル金交換停止以降、強制通用力や国際的金融協力が国際通貨を支えるという説明が試みられましたが、理論的な閉塞が見られました。その後、世界貨幣と国際通貨は本質が異なるとの主張が出ています。

以上が強制通用力に関する詳細な解説です。

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