彌彦神社事件

弥彦神社事件の概要

1956年（昭和31年）1月1日午前0時過ぎ、新潟県西蒲原郡弥彦村の弥彦神社で、新年を祝う初詣客を巻き込んだ痛ましい群集事故が発生しました。この事故は、当時「越後一宮」として知られ、多くの参拝客を集めていた弥彦神社で、新年の福餅撒きに人々が殺到したことが原因で起こりました。

前日の1955年12月31日から、約3万人の参拝客が弥彦神社に集まりました。神社では、二年参りの恒例行事として、紅白の「福餅」が撒かれていました。午前0時に打ち上げられる花火を合図に、神社の職員が随神門の両翼舎の屋根に設けられた櫓から、拝殿前の広場に集まった数千人の参拝客に向けて餅を撒きました。この餅撒きは数分で終わりましたが、群衆は餅を期待してその場に留まりました。そして、12発の花火が終わった頃から大規模な移動が始まりました。

事故が発生した際、拝殿に向かう参拝客と、参拝を終えて戻る参拝客が、中央の15段の石段付近で激しくぶつかり合い、身動きが取れない状態になりました。午前0時20分頃、群衆の重みに耐えきれず玉垣が崩壊し、支えを失った参拝客は、後ろから押し出されるように、高さ3メートルの石垣から次々と転落しました。さらに、多くの警察官がバス駐車場の交通整理に配置されており、境内の警備が手薄であったことも、事態を悪化させる要因となりました。この事故により、124名が死亡、80名が重軽傷を負うという、明治以降最悪の群集事故となりました。

事故の原因

弥彦神社は、古くから「越後一宮」として信仰を集め、多くの人が初詣に訪れる場所でした。大晦日から元旦にかけて行われる二年参りの風習も、混雑を助長する要因となっていました。事故当時は、雪のない穏やかな元旦で、前年の豊作により経済的に余裕のある家庭が多かったことも、参拝客の増加に拍車をかけました。また、バスなどの公共交通機関が県内で発達し、近隣の市町村だけでなく、遠方からも多くの参拝客が訪れるようになりました。その結果、例年2万人程度だった参拝客は、事故当時には約3万人と大幅に増加しました。

一方、警備にあたっていた警察官は3個分隊36人と、前年よりも増員されていたものの、その多くが交通整理に回されていました。神社側は、人出の増加を予測し、照明を8基から12基に増やす対策を講じていましたが、結果として十分ではありませんでした。

事故後の対応

この事故を受けて、国家公安委員会は警備にあたった新潟県警察本部の責任を追及しました。県警本部長が引責辞任し、幹部らが戒告・異動処分を受けました。また、弥彦神社の正宮司と権宮司も引責辞職し、福餅撒きは中止となりました。神社の責任者4名は過失致死の罪で逮捕され、裁判では無罪となったものの、1967年5月には最高裁で有罪が確定しました。

事故後、弥彦神社では、随神門近くの通路や石段の拡張が行われ、翌1957年の初詣からは参道が一方通行となりました。また、後世に事故を伝えるための慰霊碑が建立されました。

この弥彦神社事件は、群集事故の危険性を明確に示す事例として、現在でも語り継がれています。例えば、2022年11月2日の新潟県知事の定例会見では、梨泰院群衆事故に関連してこの事件が言及されました。この事件は、群集心理と安全対策の重要性を改めて認識させる教訓として、後世に受け継がれています。

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