当て振り

当て振り：音楽番組における演奏演出の秘密

皆さんは音楽番組をご覧になった際に、演奏者の演奏に違和感を感じたことはありませんか？
実は、多くの音楽番組では、演奏の一部または全部が事前に録音された音源を使用し、それに合わせて演奏しているふりをしている場合があります。これが「当て振り」と呼ばれる手法です。別名「手パク」とも呼ばれます。

当て振りの定義と現状

当て振りとは、テレビ番組やライブパフォーマンスにおいて、実際には演奏せず、録音された音源に合わせて演奏している真似をすることです。特に、アイドルグループの音楽番組では、生演奏よりも当て振りが多く用いられています。バンドでも、生演奏はまれで、ボーカルのみが生歌で、演奏パートは録音された音源を使用することが一般的です。激しいダンスパフォーマンスを行う歌手などは、ボーカルパートも口パクで済ませることがあります。CD音源がそのまま使用され、ギターやベースの演奏は、ただ楽器を弾いているふりをしているだけです。

なぜ当て振りが行われるのか？

当て振りが行われる背景には、いくつかの理由があります。

進行上の理由

生放送特有の事情: 生放送では、時間厳守が求められます。アーティストの演奏にミスがあった場合、番組全体の進行に影響を与えてしまう可能性があります。当て振りであれば、ミスなくスムーズに番組を進めることができます。
機材トラブルの回避: 生演奏では、機材トラブル（断線、音が出ないなど）のリスクがあります。当て振りであれば、そのようなトラブルを回避し、安定した放送を確保できます。昭和の歌番組では生演奏が主流でしたが、アンプから音が出ないなどのトラブルが稀に見られました。
機材搬入・セッティング時間の削減: 楽器や機材の搬入、セッティングには時間がかかります。当て振りであれば、これらの時間を大幅に削減できます。

経費上の理由

バックバンドの人件費削減: 生演奏では、バックバンドのメンバーにギャラを支払う必要があります。当て振りであれば、バックバンドの人件費を削減できます。
機材搬入・セッティング費用削減: 機材の搬入・セッティングには費用がかかります。当て振りであれば、これらの費用を削減できます。

技術的な理由

完璧な音質の再現: スタジオ録音されたCD音源は、高度な技術によって最高の音質でミックス、マスタリングされています。生演奏では、同じ音質を再現することが困難です。

当て振りの見抜き方

当て振りかどうかを見抜くには、いくつかポイントがあります。

演奏と手の動きが一致しない: 演奏しているにもかかわらず、手の動きが不自然であったり、音程と合っていない場合があります。
不要な音: ギターソロにギター以外の楽器の音（ストリングス、ホーンセクションなど）が混ざっていたり、コーラスの人数よりも明らかに多くの声が入っている場合、当て振りである可能性が高いです。
機材の接続状況: 楽器にケーブルやワイヤレス機器が接続されていない、普段ライブで使用している機材（エフェクター、アンプなど）が設置されていない場合、当て振りである可能性があります。
マイクの設置: 楽器に適切なマイクが設置されていない場合も同様です。ドラムのバスドラムやシンバル、ギターやベースのアンプ、弦楽器や管楽器に設置するマイクがない場合、当て振りである可能性があります。（ただし、ライン入力を使用している場合はマイクは不要なので注意が必要です。）
演奏の安定性: リズムの揺れやアドリブが一切ない、CD音源と全く同じミックスやアレンジがされている場合は、当て振りである可能性が高いです。
わざとらしい行動: ミュージシャン自身が、わざと楽器を反対に持ったりするなど、当て振りであることを示唆するような行動をする場合があります。これはロックやパンクバンドなどで見られる傾向があります。

当て振りと思われやすい演奏方法

シーケンサーによる打ち込みと生演奏を組み合わせたパフォーマンスや、ステージ後方でのサポートメンバーによる演奏などは、一見当て振りに見えますが、実際には生演奏が行われています。

まとめ

当て振りは、音楽番組制作において広く利用されている手法です。生放送の進行管理、コスト削減、技術的な限界などを考慮すると、必ずしも悪いことではありません。しかし、視聴者に対して透明性を保つことが大切であり、当て振りであることを明示したり、生演奏と当て振りを組み合わせるなどの工夫が必要となるでしょう。

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