彦根りんご

彦根りんご：幻の味、復活の物語

彦根りんごは、かつて滋賀県彦根市周辺で栽培されていたワリンゴの一種です。江戸時代には彦根藩から将軍家や朝鮮通信使への献上品として重宝されていましたが、明治時代以降、西洋リンゴの普及とともに衰退し、昭和30年頃に一度は絶滅してしまいました。しかし、市民グループの熱意によって「平成の彦根りんご」として復活を遂げ、その歴史と独特の風味が再び注目を集めています。

彦根りんごの特徴

彦根りんごは、直径4～5センチメートル、重さ50グラムほどの小ぶりなリンゴです。果実はやや扁平で、緑色の地に赤く色づきます。味は甘酸っぱく、わずかな渋みが特徴です。収穫時期は8月初旬から中旬と、比較的早い時期に旬を迎えます。

歴史：栄華と衰退、そして復活へ

彦根りんごの起源は、文化13年（1816年）に彦根藩士の石居泰次郎が江戸から苗木を持ち帰り、栽培を始めたことにあるとされています。藩の保護のもと、彦根りんごは将軍家や朝鮮通信使への献上品として珍重されました。しかし、明治時代に入り、西洋リンゴが導入されると、ワリンゴの栽培は徐々に減少。彦根りんごも昭和5年（1930年）に農園が閉鎖され、一時は絶滅の危機に瀕しました。

しかし、平成15年（2003年）、「彦根りんごを復活する会（現 彦根りんご保存会）」が発足し、幻の味を蘇らせるための活動が始まりました。会では、日本各地からワリンゴの穂木を集め、接ぎ木によって育成。古老の記憶や残された水彩画を参考に、在来種に最も近いものを選抜し、「平成の彦根りんご」として栽培を再開しました。

復活後の展開

平成の彦根りんごは、地域ブランドとしての地位を確立しつつあります。2017年には「幻の彦根りんご復活200年祭」が開催され、彦根市金亀公園にも植樹されました。2024年には解説サインと記念碑が設置されています。また、平成の彦根りんごを原料としたシードルも開発され、新たな特産品として注目されています。

関連資料

「彦根りんごの図」岡島正夫（画号名 徹州）画
「彦根の植物」村松七郎著 (1980)
* 「彦根りんご物語」彦根りんごを復活する会著 (2009)


彦根りんごは、一度は忘れ去られた味が、人々の情熱によって蘇った奇跡のリンゴです。その甘酸っぱい風味は、歴史と文化を物語る貴重な味覚として、未来へと受け継がれていくことでしょう。

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